五章八話

菊川雅は、もしかしたら他にもターナ値を発する道具を持っているのでは無いか。誰が言葉にするでもなく、自然とその疑問が沸き起こり、菊川もそれに気がついた。

「別に心配しなくたって、私には能力なんてないし、こんな風な道具だってせいぜいあと二つくらいしか持ってないわよ。それで、誰か行く?」

最初は誰も手を挙げなかった。興味は惹かれたものの、菊川の杖そのものが、危険かもしれない。そう考えると、気は進まなかった。

おずおずと、侑里が手を挙げる。きっと全員が手を挙げなければ、菊川は一人で行ってしまうだろう。誰か文学愛好会の部員が参加するよりも、そちらの方が危険だと判断してのことだった。

「ユリだけ?他には?」

萌子と、桃が手を挙げた。行きたくはないのだろう、桃は、とてもゆっくりした動きだった。

「ん。四人ね。じゃあ榊、旅館の方は任せるわね。私たちは寄り道してから向かうから」

頷こうとして、榊が止まった。

「先輩。寄り道ってどんくらいかかります?あんまりかかるようだと全員が寄り道した方が向こうもめんどくさくないと思うんですけど」

榊のその言葉に、菊川は少し考える仕草をしてから答えた。

「それなら、さっさと向かうだけ向かっちゃってから自由行動にしましょうか。そういう風に時間決めてたわよね?」


鬼の愛した人間。彼女は当時の村の外れに住んでいて、文献によると天文学者であったらしい。だが、家の裏には畑が見える。花の形や葉の形は野菜ではないが。

「菊川さん、この家は物語の舞台になった家なので建て替えられたり手入れされてたりするなんて、書いてありましたっけ?」

木造の家は古い佇まいではあるものの、今も人が住んでいるような息遣いが聞こえてきそうなほどに、手入れが行き届いている。雨漏りや隙間風の心配は少ないだろう。それに、畑が明らかに妙だ。雑草が全く生えてない上に、畑の畝に沿ってきちんと並んで育っている。しかし、特に柵があるわけでも看板があるわけでもない。

「……ターナ値のせいなのかな」

当時の姿そのままを見ている。そうとしか考えられない場所だった。

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