五章九話

「あれ?」

四人で鬼の愛した女の家を観察していたところ、軒先に青い何かがついているのが、侑里の目に留まった。よく見ると、青い花びらだった。この前世界中を舞ったものと同じ物に見えた。

手が届くような場所ではない上に、ここはきっとターナ値に汚染されている。もしかしたら、この前の事件のせいで、良くない方向に変化しているのかもしれない。そう思うと体は動かなかったが、萌子はどうやら青い花びらのことを気にしている。あの花びらが危険なものではないと分かれば、安心するかもしれない。その考えが、侑里に「第三の手」を使わせた。

神経を集中させて、目に見えない「糸」で固定する。糸は切れることなく、適度な張りを持って「第三の手」と繋がっている。切れる心配はなさそうだ。他の三人は、侑里が「第三の手」を出現させたことに気がついていない。今の内に取ってしまおう。落ち着いて、しかし遅すぎない程度に「第三の手」を伸ばし、花びらを人差し指と親指で掴む。その花びらを持った時、侑里は「熱い」と感じた。「第三の手」は熱さや痛みを感じることはない。刃物だろうと酸だろうと猛毒だろうと、掌や指につけることができ、移動させることもできる。しかし、侑里に傷はつかない。その「第三の手」から熱さを感じたのだ。侑里にとっては初めてのことで、その戸惑いのせいで手を離すのが遅れた。

「――っ!?」

突然、視界が歪み、花びらが「第三の手」を吸い込むように突風を吹かせた。いや、現実には突風は吹いていない。侑里の服もひざ丈のスカートも、邪魔過ぎない程度の長さの髪も動いていない。ただ、「第三の手」と侑里の体だけが、吸い込まれようとしている。

「ユリ?」

突風でよく目が開けられないが、萌子が侑里の様子に気がついたようで、声をかける。しかし、萌子が動いている様子はない。そうこうしている間に、「第三の手」が吸い込まれてしまった。「第三の手」を固定していた糸だけを残して。それでも、突風の勢いは弱まる気配がなく、とうとう侑里の体が浮いた。

「ユリ!」

萌子が侑里の手を握る。その萌子を、桃が引っ張ろうとする。菊川も異変に気がつき、例の杖を振りかぶった。

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