二章八話

二人は連れ立って木造校舎へ歩いていく。

「ところでさ、ユリ」

外の雑木林に差し掛かった頃、萌子が少し気まずい様子で侑里に声をかけた。

「本を取る時、『第三の手』を使っちゃえば良かったんじゃないの?」

「ちょっと最近私利私欲で能力使うのはどうかなーって思い直しているところなのよ」

素っ気なく言うが、実際のところは雪河響と約束を交わしたからであった。本当に必要な時以外は『第三の手』は使わない。使うとしても、可能な限り短い時間で用事を済ませるようにする。侑里が初めて会った時から十日ほどが経って、響は更に透明度を増していた。彼もそれに気づいており、「僕のようにはなってほしくない」と何度も侑里に言っていた。

「ふーん。私、ユリって便利な道具は使い潰すんだー!ってタイプだと思っていたけど」

萌子の言葉に、研究所で口癖のように研究員たちが言う言葉を真似て――研究所の所長は顎がしゃくれているので同じような表情になって――侑里は言った。

「『未知のものに頼ることは、原始時代の動物と変わらない。我々は人間なのだ』」

「なぁにそれ?」

萌子が笑ったので、侑里も笑った。

「受け売り。面白いでしょ」


部室の扉を開けるタイミングになって、侑里が萌子に言う。

「萌子。まだ部室に来てなかったよね?さっきいなかったし」

「うん、まだ授業があったから」

それを聞いて、侑里は悪戯っぽく笑った。

「部室、すごいことになってるよ」

「え?」

戸惑う萌子の顔を見ながら、侑里はガラッと扉を開ける。目の前にある部室の机の上では。

「なにこれ?」

机の部分が見えないほどの大量の旅行雑誌とチラシが山を築いていた。

「あら、萌子来たのね。それに目を通して。あなたの意見を聞きたいの」

部室の奥から菊川が萌子に声をかける。

「菊川先輩……、これ全部春休みのための資料ですか?」

「そうよ。とりあえず候補地は絞り終わったからあとは部員たちの意見も聞きながらまとめようかと思って」

「これで、ですか?」

目を通すだけでもそれなりの時間がかかりそうだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る