二章六話

「ミュズィース。君は一体どうしたいんだ」

ミュズィースに問いかけると、ミュズィースはすぐに答えた。

「本来いるべきところに帰りたい」

その力強い確かな響きを聞いて、真也は頷く。

「……そうか。君にとっているべきは確かにここではないのかもしれないな」

後半は自分に言い聞かせるような響きだった。

「それで、香弥。いったい君はどのような方法によって『青銅の門』を閉じるつもりだ?まさか、君のありあまる力で破壊するなんてことは言わないよな?」

その真也の言葉に、香弥は首を横に振る。

「別にそれでいいならそれでも良いけど、ちょっとこっちにも事情があってね。きちんと閉めて、ついでに危ないものが出てこないようにできればなーと思ってる」

ただ、一つ問題がある、と香弥は言って、更に続ける。

「あの『青銅の門』は、ぶっちゃけて言うと超優秀な代わりに使いづらいことこの上ない音声認識ロック機能を持ってるのよ。だから私の声が届くような範囲まで行きたいんだけど、この船で『門』まで着くのに、あとどれくらいかかる?」

真也は腕時計を見てから答えた。

「一時間弱かかる。到着した先の部隊も沈黙しているだろうからもう少し時間がかかるかもしれない」

「駄目ね、話にならないわ。……どうしよ、転移術はあと二回分しか残ってないからシンヤを『門』まで連れていけないし。空飛んだら流石に怒られそうだし……」

香弥が口に出して考えているところに、真也が口を挟む。

「俺は置いて行ってくれ」

「いやよ。だってあなた心の奥の方じゃ私をまだ信じてないでしょ。きちんと私が世界を救う所を見届けてもらわないと困るわ」

香弥の素っ気ない台詞に、真也は頷いた。

「確かに君を信じてはいない。一体どんなトリックを使っているのか今も考えている。だが、それとこれとは話が別だ。咲岡真也さきおか しんやという一人の男として、香弥。君を信じよう。ミュズィースにとって一番良いことをしてくれ」

真也の台詞を聞いて、香弥は目を丸くした。

「さきおか?あなた、苗字はサキオカって言うの?花が咲くの「咲」《さく》に岡でサキオカ?」

「そうだが、それがどうかしたか?」

不思議そうに問いかける真也に、香弥は腹を抱えて笑った。目に小さく涙が浮かぶほどに笑い転げてから、香弥は言った。

「あはははは!奇妙な縁もあったものね。良いわ。咲岡真也。あなたの頼み、聞きましょう」

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