二章五話
真也とミュズィースの押し問答を暫く黙って聞いていた香弥だったが、二人の間に入り、少しうんざりした表情を浮かべて、言った。
「あなた――シンヤとか言ったわね――いいかしら?カミサマの説得には事態の把握をきちんとすることが大事よ。なんかこう、人じゃない具合が分かる機械とかない?」
「……ターナ値計測器のことか?」
真也は、腰に装備してある携帯用ターナ値計測器を香弥に見せた。香弥が頷いて、更に真也に訊く。
「それそれ。それ、アンテナ方向にある何かの人じゃない具合が分かるって機械でしょ?空気とかでも判定してくれる?」
「この船に搭載されているものほど性能はよくないが、ある程度なら」
「うん。それなら問題ない。とりあえず私に真っ直ぐアンテナ向けながら計測して。多分私が出てきた青銅色の扉くらいの値が出るはず」
香弥の言う通りに真也がターナ値計測器を使うと、言われた通りターナ値50と計測された。
「ああ、その通りだ」
「あなたに向けて計測すれば、この星の人間標準の値が出る」
真也がアンテナを自分に向けて計測すると、確かにターナ値は1だ。頷くと、香弥が更に言う。
「うん、壊れてないわね。じゃあそのまま真っ直ぐ後ろを向いて、後ろの空間を計測して」
香弥の言葉に疑問を感じながらも、真也は言われた通り振り向いてターナ値を計測する。計測が終わって、真也は目を剥いた。
「……78!?こんな数値は見たことがない!」
「それが本来のミュズィースの歌の力。ここ、あなたの星の北極の近くよね?だから、北極圏くらいの面積がそのくらいの値になってくれれば十分だったんだけど、残念なことに北半球全部でその値が出るわ。ミュズィースにお願いして私がここに来れるようにしたつもりが、ミュズィースったら加減を弁えてないのね」
多少なりとも訓練積んでストレスを溜め込まない生活を送っていればここまで酷い有様にはならないはずだけど、と更に香弥は続けたが、真也の耳には届かなかった。
「北半球全てがグレイのようになっているって言うのか!?」
ミュズィースが歌ってから今まで、グレイは身動き一つしない。応援が来ないことから艦内は全てミュズィースの歌の影響下にあることは分かっていたが、そこまで広範囲にミュズィースの歌が届いているとは予想していなかった。
「グレイがそこで眠りこけてる男のことなら、その通りよ。もしもこのままミュズィースが北半球を人質に取るなんて言い出した場合、あなたは責任取れる?円満に解決しましょう?」
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