わたしは、女ですよ?

 萱場・佐倉ペアは最後の代表枠を争うところまでたどり着いた。

 来週の全日本で優勝すればオリンピック代表が確実になる。

 東城トランスポートの選手全員がそれぞれの目標を捉え、体調管理も含めた調整の時期に入っていた。今日は午前中の自主練の後、休養のスケジュールだ。

「日奈、練習が終わったら、うちに遊びに来ないか?」

 萱場から声を掛けられて急に日奈の挙動が不審になる。

「どうした?」

 日奈はじいっ、と萱場の顔を、今までに見せたことのないような驚きの表情で見ている。

「わたしは、女ですよ?」

「・・・そう、だろうな」

「タイスケさんは、一応、男ですよ?」

「・・・だから、何なんだ?・・・」

 萱場は‘一応’という部分に小馬鹿にしたようなニュアンスを感じたが、できるだけ平常心で応対する。

「男の人の部屋に誘われてのこのこついて行くなんて・・・」

 日奈は心から軽蔑する、とでも言いたげな表情を浮かべながら続きの言葉を放つ。

「できません!」

「はあ?」

 萱場は、こいつは何を言い出すんだ?と訳が分からなくなったが、日奈の侮蔑の言葉はまだ続いた。

「タイスケさんは確かに常識ないって思ってましたけど・・・・恥知らずとは知りませんでした!」

「あのなあ・・・」

 萱場は話すのも面倒くさくなったが、妙子(たえこ)から頼まれていたので最後まで説明しなくてはならない。はあっと大息を吐いてできるだけ冷静に話した。

「俺の女房が、日奈を夕食に招待してやれ、って言うんだ。俺は別にどっちでもいいんだけどな・・・」 

 日奈はまるで上げた拳を下ろす場所がないような様子で動きが止まってしまった。

「来るのか、来ないのか、どっちだ?」

 日奈は上げた拳を下ろすどころか、もう理由が無くなったのにそのままぶん殴るような勢いで言い放った。

「もっと、分かりやすく話をして下さい!」

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