一日一日、年を取る
しかし、老いは確実に進む。35歳を目前にした萱場は、更なる転機を迎えようとしていた。ある日、萱場は監督から呼び出された。
「萱場、そろそろ指導に専念しないか。お前は選手としての実績も、コーチとしての力量も申し分ない。実は、女子部の強化も図ろうという方針が今年度の計画で決まってな。お前を女子部の特任コーチにしたいと上は考えてるんだ。どうだ?」
萱場自身も実は、自覚していた。
去年までは、試合の翌日も、スポットの仕事でローリーに乗り込み、時には往復数百kmも運転して配送する、という信じられないようなことをやっていた。
しかし、今年に入って、試合の翌日に疲労感が残るようなこれまでにない感覚があり、現場の上司に、試合後は数日配送を休ませてくださいと頼んだ。試合の翌日からは内勤の事務作業を何日かやった後で現場に出るように配慮してもらった。萱場は僅かな疲労や気の緩みが重大な事故を引き起こす、という現場の仕事の厳しさを知り抜いているが故に、潔くそう申し出たのだ。彼のその判断は、「さすがカヤさんだ」と、現場のドライバーからも、上司からも却って評価された。
「分かりました。お引き受けします」
萱場の返事に監督は安堵した。
「じゃあ、早速なんだが、来週一週間、九州へ行ってくれ。鹿児島の聖悟女子高校のバドミントン部の練習にコーチ人員を派遣することになってる。もちろん、スカウトが目的だ。お前の部署にはこちらから了承を貰っておくから」
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