金色の海

#1

 旧市街の路面電車に乗って、さほ子と博人は海を見に行くことにした。

 金曜日の午後。ランチでもなく、ディナーでもない時間を、博人はあえてリクエストした。午後の中途半端な時間は、さほ子にとっては都合が悪い。下の子の、幼稚園のお迎えがあるからだ。さほ子が何を思って彼と会うことを求めたのかはよくわからない。わからないけれど、彼の中ではもう、さほ子に深くかかわりを持つことはできない、と結論付けられていた。だから彼は、あえてさほ子が長い時間を捻出しづらい時間を指定した。


 さほ子は、そこしか都合がつかない、という博人の言葉を素直に信じた。

 幼稚園に連絡をし、予定よりも二時間の延長保育を依頼した。朝から浮き足立ちそうになる自分を戒めながら、冬の装いで彼女は家を出た。


 暮れも近づく年の瀬の街。あちこちにクリスマスの飾りつけの見えるショーウィンドウを過ぎて、路面電車は波止場前の終点に着いた。

 ふたりはそこで電車を降り、石畳の波止場の公園を歩いた。

 クリスマスのプレゼントに何を選ぶか、をふたりは話しながら歩いていた。新市街の洒落た百貨店の中に入っている、小さな和装店の小物の魅力について、さほ子は熱をこめて語った。博人はさほ子にプレゼントを贈るとしたら何かを考えながら、彼女の話を聞いていた。

 肩を並べて歩きながら、さほ子は自分がとてもリラックスして話ができるのを感じていた。そしてなにより、歩く早さに気を使わなくていいことに、気づいた。何度も彼と一緒に歩いていたのに、いまさらのように、そのことに気づいた。


 港を一望できる公園は、小さな丘に面して作られている。

 その丘には、アメリカから輸入した、真冬でも枯れない芝生が植えられている。市の自慢の公園だ。

 青々としたその芝生の上を、ふたりは丘の上にあるベンチを目指して、のんびりと歩いていた。


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