#2
やがて子どもの遊びのようにせわしなく季節が入れ替わり、日が出て日が沈み、海は満ち引きを繰り返した。すべては彼女の気まぐれを誘うための舞台装置のように、今の博人には思えた。
あの日、彼女が博人を誘ったのは、間違いなく彼女一流の気まぐれだったはずだ。あるいは一度彼と寝て決着をつけ、彼を遠ざけようとしたのかもしれない。
いずれにせよ、食事の後にホテルに誘い、ベッドへ導いたのは博人自身だ。しかしそれは、彼女の思惑を行動にしただけに過ぎない。そのとき彼は、完全に常軌を逸していた。いまでも彼女に何を喋ったのか、よく思い出せない。そして博人のペニスは勃起しなかった。
彼女の身体は、何度も想像したのとまったくズレなく、素晴らしいものだったにもかかわらず、だ。
ホテルを出て、彼女を自宅近くまで送っていき、彼らは別れた。
酒を飲む気にすら、ならなかった。
季節は秋。
高くなった空に、銀色の月が浮かんでいた。
携帯で、
クルマで海を見に行った。
何も考えることができぬまま、秋の宵闇にまぎれ、風に吹かれた。夜の海は、波音が遠く、穏やかに揺れていた。
そして、博人は、不思議と気持ちが晴れていくのを感じた。
―――もう、気張らなくていいのだ、と思った。
彼女はもう、手に入らない。だからもう、シフトダウンしていいのだ。アクセルをゆるめて、スピードを落としていいのだ、と。
そう思ったら、本当に気が楽になり、わだかまっていた思いが晴れていく気がした。長い夢から
博人は携帯を取り出して、彼女にメイルをした。
内容は簡単な今日の礼と、侘びにした。別れ話をするような関係ではない。これきりだ、と思いながらも、最後の時まで澄まし顔で連絡をした。
<送信>ボタンを押すと、長い片想いが終わった気がした。
肩から力が抜け、肺の空気を根こそぎ入れ替えることができるようになった。
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