暇なときに書く

にぃつな

風来のような世界観(未完)

EP.01 - 1

 俺の名は海棠(かいどう)久雄(ひさお)。20代。この年になってバイトを明け暮れる毎日を生きている。俺の唯一の楽しみは【風来の旅人】とおけるシリーズもの。


 小学生の頃に父がお誕生日プレゼントにもらったことがきっかけでどっぷりとはまった。その後、シリーズが継続され、それを追い越すかのように毎日遊び、そのゲームの世界観にはまっていた。


 そして、大人になって仕事をしても、このゲームはあきらめる気はひとつも起きなかった。会社からのパワハラも友達からのゲーム卒業話でも、俺はこのゲームから離れることはなかった。


 そんな俺に祝福してくれているのか、このゲームはゲーム機からPC、スマフォと移転していき、VR機で最深シリーズが登場となった。


 心から感動するあまり、俺はこのゲームの制作会社に何百回もお礼の手紙を出したものだ。


 発売当日に、俺はあらかじめ予約していたVR機の【風来の旅人】最新作を購入し、家へ帰る途中だった。


 不幸だったのかもしれないし、選んだ道が悪かったかもしれない。


 その日、普段は通らない道を通り、俺は事故に遭って病院へ運ばれた。


 意識不明の重体で運ばれていく俺の体を見て、唖然としていた。大きなショックが身体に応じ、目の前が真っ暗となった。気づけば、俺と似た人が救急車に運ばれ、緊急手術室へ運ばれていくのを見届けた。


 地面に転がるVR【風来の旅人】を持つことなく、割れた状態で俺の体は様々な機械に囲まれ、生命維持? という名の植物人間とした。


 医者の話ではまだ、昏睡状態で意識が戻らない。

 せいぜいあと1週間が限界かもしれないと話していた。


 俺はショックだった。


 念願のゲームができると思っていた。


 あのとき、道を変えなければこんなことにならなかったはずだ。俺の不幸は俺を呪ったのだ。


 ああ…意識が遠のいていく。


 あの世界で俺は旅人となって仲間たちと冒険したかった……――。





 気がつけば何分経っていただろうか。俺は目を開いた。


 見たこともない木製の天井にどこか和風のような壁がずらりと並び、床にはコンクリートのように硬くひんやりとしていた。


 俺は白くふかふかのベットから体を起き上がらせ、目の前に広がっている光景を見渡した。


 俺は…俺は……。


「俺は、いったい…」


 あの冷たくなるような感覚に包まれていった。真っ暗闇で光なんてない世界に俺は一人ぼっちになるのだと寂しくなっていた。けど、瞬きして一瞬の光が見えたと思ったとき、手を伸ばし、俺はもう一度瞬きしたら、この場所にいた。


「記憶は……ある」


 病院の出来事、念願のゲームのこと、バイトしていた仲間たちのこと、俺の名前、俺の年齢、俺の体。記憶。


 額に手を置き、考え込む。俺がどうして、ここにいるのか考える。


 俺は、あのとき死んだのか? という疑問が浮かび上がる。植物状態となって、俺の体を見つめて、ただ俺は死んだのか? じゃあ、俺はどうしてここにいる。それに、この身体はいったい…。


「気付いたようだね」


 俺はハッとした。目の前の扉が半分開かれ、心配そうに見つめる白髪の老人が俺を見つめていた。老人は俺にゆっくりと近づきながら、「家の前で倒れていたからびっくりしたよ」と俺が知らない出来事を教えてくれたようだ。


「そうでしたか……助けてくれてありがとうございます」


 俺は俺ではない。けど、老人は助けてくれた。見知らず俺を。俺は老人にお礼を述べた。助けてくれたことも俺ではない体を助けてくれたことも含めて。


「しかし…お主は、不幸な目に遭った顔をしておるじゃの、話したくないなら別にいい。ただ、話してくれた方が少しはすっきりするじゃろう」


 俺は老人に信じてもらえないかもしれないが、俺が一度死んでしまったのかもしれないことと俺ではない誰かの体に入り込んでしまったかもしれないという話をした。


 異世界や転生かもしれないと踏まえて話しをした。


 老人は仕切りに「ふむふむ」といい、頷いていた。俺は必死に状況を話し、この世界について話しを尋ねた。


「ふむ。お主の話が事実であれば、奇跡なのかもしれない。じゃが、不幸かもしれぬがお主の言う“元の世界”へ帰る方法はわからぬ。ただ、言えることは帰る方法を探す一方で、この世界について知っておくといい事じゃろう。それに記憶障害はいつなんどき、おこってもおかしくないからな」


 記憶障害…そうか俺は老人から見たら記憶障害もしくは記憶混乱しているのかもしれないと考えたのか。そうかもしれない。俺は元の世界のことなど考えてもいない。ゲームやアニメなど妄想しては想像し、こういう世界があったらと空想を立て、文字を書いたり絵にかいたりしていた。


 現実に帰るという選択肢で現実世界へ帰りたいという妄想や空想を立てたことは今まで一度もなかった。俺は元の世界にない刺激がほしかったのかもしれない。


「さて、この世界についてじゃ。知っているだろうが我愛羅(があら)がわしらの家であり国だ。我愛羅には様々な人種が住み、差別は少ないほうだ。国としては治安がいいが、モンスターの被害は多いのが苦しいところだ」


 モンスター? ゲームにおける人に害する敵のことなのだろうか。


「そこで我愛羅の人々はモンスターの妨害を阻止するべく旅人をはじめ、職人や産業、商人といった職業を立て、人々に役割を与えていった。結果、敵を倒すものと素材を集めるもの、人に交換するもの、装備を整えるものと幅広く増えていった。モンスターもまた、抵抗するべく人と似たことをして対処した。ここまでがこの世界の話。もうひとつはこの世界における生き抜く方法じゃ」


 俺はつばを飲み込んだ。


 俺がやってきたゲーム【風来の旅人】と同じ設定だからだ。俺は胸がなっていた。テンションが上がりつつあった。感動をしていた。


 もし、この世界が【風来の旅人】と同じ世界であるのなら、俺はこの世界のことを知り尽くしているということになる。もし、そうなら、俺は帰る方法を探しつつ、好きだった仲間を集めたり友に冒険したりと励むことになるだろう。


「この世界には属性を操ることや技を使うのもすべて【必殺技】と呼ぶ」


「魔法じゃ、ないのか?」


 素朴な疑問だ。


「魔法? 奇跡の類だが、そんな言い方はせぬ。魔法は医療や自身的や自然界における特別な出来事に関して魔法と呼ぶが、他に関しては必殺技と呼ぶ。人もモンスターも使うことができる代物だからじゃ」


 魔法は自然界、必殺技は人工的という意味合いか。


「必殺技は主に武器や専用となる道具。あとは才能次第で扱えるものだ。旅人となるには必ずといっていいほど必殺技を1つもっておく必要がある。試験ででるからだ。お主が持っていた装備を調べさせてもらったが、必殺技どころか、なにひとつなかったわい。あれじゃ、モンスターにコテンパンだったじゃろうに」


 俺が知らない体。俺が入る前、こいつはきっと、必殺技がなくても旅人に憧れ、モンスターに逃げることもなく戦ったのだろうか。たとえ、負けてもこいつは本能だったのかもしれない。


「さて、わしが知る限りの話はした。お主は、ここにきて初めてだと、そういったな」


「はい、記憶が飛んだのが原因かもしれませんが、俺の意識ではそう感じています」


 老人は静かに「そうか」とため息のように吐き、俺に人差し指を当ててこういった。


「お主にはスキルをやる。これは、わしからのご褒美でもあり、旅立ちの始まりの試験でもある」


「試験?」


 どういことなのか。話がついていけず、戸惑う俺。


「お主の体は先ほど言ったとおりにモンスターに倒されていた。身体は死に、生きることはないだろうと半分諦め、捨てるつもりでいた。だが、奇跡が起きた。記憶が飛ぶという代償のかわりに、お主が生まれた。これは魔法と呼ぶ。わしは驚いたのだ。目の前で魔法が起きるなんて。じゃから、今度死なないようにお主が念じるスキルを3つ授ける。これは、わしの願いであって、希望だ」


 どういうことなのかさっぱりだ。俺は老人に問うと声を出す瞬間に、老人の人差し指が俺の胸に触れた途端、俺は場外へ吹き飛ばされた。


 壁を突き破り、遥か空へ吹き飛ぶ。大きな重しのようなものが目の前にあるかのように俺を加速させる。老人がいた家が見えなくなるころには、俺は、我愛羅と呼ばれるある国にて、生活をすることとなった。

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