第81話 いつまでも続くスローライフ

リパーとジリアンはレベル450オーバー。

ランクアップが近いから、レベル上げではなくボスの討伐をしたいらしい。

元々はランク2の400レベル以上のボス討伐、が条件だったのだけど。


「それにしても・・・何故ランクアップ専用クエストなんて増えたのでしょうか?」


リパーがまだ納得いかない感じで言う。


「それに関しては、色々説明して貰ったじゃないか?凄く分かり安かったよ!」


ジリアンが言う。

他種の資料、他種の情報を駆使し、不自然さを一切感じない形での説明。


「それがおかしいんですよね。今までは不思議や理不尽な現象も普通に起きていたのに、最近はその現象や変化の理由がきっちりし過ぎていて・・・」


リパーが小首を傾げる。


「情報開示を積極的に進める方針になったらしいわ?」


エイプリルが述べる。

まあ、徹夜明けの変なテンションで色々変更入れたは良いが、あまりにも唐突な変化だったので、不自然にならないように理由付けたのだけど。

そっかあ、ストーリー作り込みやり過ぎたか。


「・・・エイプリルさんとディーンさん、まだ何か隠していませんか?」


リパーがうろんな目で問う。

此処が箱庭と呼ばれて低級神の遊び場とか、俺とエイプリルはこの世界運営チームの特別アドバイザーとか、一部話してない情報は有るけど。

基本的には特に無い。


「アテナ様の正体を除けば、特に隠している事は無かったよ」


俺が答える。


「じゃあ、クエスト概要の確認をするね」


ジリアンが言う。


「このクエストは、ランク3へのランクアップの条件となっているクエスト。庭園の攻略、神殿迷宮の攻略、最奥のボスの討伐・・・推奨人数は12人。これがクリア出来ずにランク2でくすぶる人も出始めている。ランク3以上の人でもクエストに参加出来るけど、不思議な力で能力を制限されてしまう」


ジリアンが続ける。

便利な言葉、不思議な力。

ジリアンの説明だと難易度高く聞こえるが・・・実はそうでもない。

単純に、12人以上集めれば良いのだ。

この世界にPTの人数制限等ない。

極端な話、50人や100人集めても良いのだ。

俺はぼっちだけど。


親切な冒険者や、報酬を期待する冒険者が、手伝いもしているし。

無論、手伝って貰えると聞いて付いて行ったら人気の無い場所で・・・みたいな話もあるかも知れないが、これはランク2の高レベルまで上げた人の警戒能力に期待して良いと思う。

ジリアンやリパーみたいな特別な理由がない限り、相当苦労しないとランク2の高レベルはなれない。

勿論、ジリアンやリパーが苦労していない訳では無いのだけど。


俺達で通用するかどうかは分からないけど・・・まあエイプリルとリパーとジリアンが強いし何とかなるかな?


「良し、行こう」


そう言って、先に進む。


--


リパーの先導のもと、リパーとジリアンが仕掛けを解き、俺とエイプリルも敵を引きつけたり倒したり・・・手伝って、何とか神殿の最奥まで辿り着いた。


リパーがくるっとこっちを見て、


「・・・何だか・・・ディーンさんとエイプリルさん、積極的に動いてない気が・・・します?」


・・・あ。

つい、難易度設定はこれで良いかとか、どう行動するかとか、感想を聞くとか、そっちに集中してた。

いかんいかん、今はテストしてもらってる立場じゃなく、一緒に冒険している仲間だった。


「そうよね・・・申し訳なかったわ。私達はまだレベルが足りないから転職は先で・・・ついつい、リパーとジリアンの転職を手伝ってる気になってたの。手伝いなら、積極的に手を出しちゃ駄目でしょ?」


エイプリルがぺこり、と頭を下げる。


「・・・確かに、ディーンとエイプリルもフラグを建てられるけど、今日は僕達メインだよね」


ジリアンが一理ある、と頷く。


「・・・なんか・・・そんなんとも違う気がしたのですが・・・ディーンさんが何か積極的にメモをとったり、エイプリルさんと何か打ち合わせ?をしてたのが気になります」


「悪いな・・・つい、愛を囁いたり、デートの予定を話したりしてて・・・」


「嘘です!」


リパーが否定する。

何故。


「嘘じゃないわ?PT行動中に私事をしていたのは謝るわ?」


「嘘です・・・だって、そんな話してたら、エイプリルさんがデレデレになる筈です!」


・・・そんな訳ないだろ。

お前達、エイプリルを何だと思っているんだ。

エイプリルは、仕事は完璧に遂行するタイプだ。

顔色一つ変えないのは朝飯前だ。


「・・・そんな訳無いわ?」


エイプリルは、呆れたような顔をして、リパーを見る。

俺はエイプリルの耳元に口を近づけると、


「エイプリル、好きだよ」


ぽそっと呟く。


「え・・・ええっ・・・ふわっ?!」


エイプリルはきょとん、とした後、目をぱちぱちさせ・・・耳まで真っ赤になった後、涙目になり・・・ふにゃっと力が抜け、俺に体重を預ける。


「えう・・・ふふ・・・えへへー」


満面の笑みで腕をぎゅっと抱きしめる。

・・・可愛い。

・・・はっ、不味い。


リパーとジリアンはこっちをじーっと見て・・・


ジリアンがリパーに、


「ごめんリパー、その辺で・・・エイプリルが可愛すぎて・・・追求とかしたくない」


リパーもジリアンに、


「・・・ですね・・・」


・・・おおっ、回避出来たらしい。

本当にエイプリルの作戦には恐れ入る。


「ふふ・・・えへへ・・・」


笑顔で顔をすりすりするエイプリル・・・本当に可愛いなあ。

演技には見えない。

そっと抱きしめつつ、


「良し、後はボスだけだ」


ボスは、巨大な石像の騎士。

取り巻きはいない。


ボスは流石に、ジリアンとリパーだけではきつい。

エイプリルが複数魔法を矢継ぎ早に行使、俺も鉄の槍で応戦。

ジリアンが挑発してタゲをとったり、瞬時回復を行使したり、鎚で全力攻撃をしたり。

そしてリパーが大技をどかんどかんと叩き込み・・・


少し時間はかかったものの、危なげなく倒せた。


「やった!これでランクアップの条件を満たした!」


ジリアンが歓喜の声を上げる。


「ですね・・・後はレベルをあげるだけです!」


リパーも嬉しそうに言う。

まあリパーとジリアンの経験値補正なら直ぐだろうな。

普通に強いしなあ、この2人。


「お疲れ様、みんな」


エイプリルが微笑んで言う。


「お疲れ様・・・俺とエイプリルも後追い、転職出来るように頑張るよ」


1ヶ月有れば何とかなりそうかな。


リパーは俺とエイプリルを見て、


「・・・随分差を開けられてしまった気がします」


溜息をつく。

・・・差を開けられたのはこっちだからね?!


「そうだね、2人の間に割り込むのは難しそうだ」


俺とエイプリルのレベルは少し離れている。

(エイプリルの方が少し高い)

なので、間に入る、というのは可能だけど・・・何でそんな事するの?!

意味もないし、レベルを下げる手段が有る訳でもない・・・まあ、スキルとか罠とか、何か知らない物があるのもかも知れないけど。


「それに・・・恐らく、私は元の年齢・・・気にされているのですよね・・・今が本当は9歳・・・9年・・・経って気持ちが変わっていなければ・・・再度挑戦しても良いですか?・・・勿論、それより前に受け入れて下さるのなら、御願いします」


・・・え、ランク2の試験にもう一度挑戦するの?

別に断る理由はない。


「勿論だよ。その時は是非。恐らくソロ出来ると思うけど」


「・・・うん、伝わってない気がします・・・」


リパーががっくりとして言う。

ジリアンが慰める。

・・・ちゃんと伝わっているからね?


「僕も、身を引くよ。2人の間に割り込める気はしない」


ジリアンが告げる。

だからレベル下げられないって。


「ハーレムが嫌だ、と言うのなら仕方ないよね」


ジリアンが続ける。

・・・何で急にハーレム出てきたの?!


「ごめんなさい。私は自分に自信が無いから・・・」


エイプリルがぺこり、と頭を下げる。


「・・・エイプリルに勝てる要素本気で見つからないんだけど・・・ま、まあ、僕も前の世界で1年間ずっと想いを秘めていて・・・この世界でも我慢していて・・・まだ待てるよ。だから、今は身を引く。今まで長い間我慢していたんだ、あと数日待つくらい大丈夫さ」


ジリアンがにっこりと笑う。

2人とも申し訳ない・・・でも今はエイプリルの事しか考えられないんだ。


「・・・2人とも、有り難う。・・・じゃあ、帰ろう」


変わった関係、変わらない関係。

変わった日常、変わらない日常。


この新しい世界で、いつまでも続く、スローライフを。


・・・ところで、何もちょっかい出さないって決まりは、ストラスにも有効なのだろうか?


*******************


この話は、此処で終わりです。

お付き合い下さり、本当に有り難うございました。

カクヨム様では、この作品を高く評価頂ける方が多く、大変嬉しかったです。

他作品でもお付き合い下されば幸いです。

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