第56話 提案書発行
「疲れたあ・・・」
「お疲れ様、やっぱりちょくちょく変な要望はあるわ。でも要望の破棄には、発行時以上の権限が必要だから・・・まあ、出来るんだけどね」
ぼうっ
エイプリルが判子を召喚。
くるくる回す。
トールの筆頭眷属の神印。
序列2位までの神印を破棄出来る。
「出来たら明かしたくないよなあ」
俺がぼやく。
面倒くさい。
「そうなのよねえ・・・」
エイプリルが溜息をつく。
ストラスが夕食の準備を整えている。
と言っても、ルームサービスを注文したんだけど。
それにしても、アテナの用事って何だろう。
〈天界に悪魔が侵入した形跡が発見され、今調査や警戒が行われてて・・・で、本来の仕事が滞った神々が出たので、本来の仕事を手伝ってあげているのです〉
酷い自演を見た。
ちなみにどんな仕事ですか?
アテナから仕事の内容を聞き、表計算ソフトで簡易な補助を作って渡す。
イメージだけ送ったのだ。
〈仕事が一瞬で無くなったんですけど?!〉
アテナから抗議が送られてくる。
効率、大事。
夕食、お風呂、就寝。
明日も戦場だ。
--
「ニンゲンさん、ここの処理なのですが」
「ラーヴァ理論とWE理論を使って」
「なるほど」
とか、
「ニンフがグレアーするので、ITがサルベに」
「サルベは処理が重いから、草まいて」
とか、ある程度システム構築の補助が出来るようになった。
未着手案件もかなり少なくなった。
そろそろ、本来の目的である、インスタンスダンジョンの追加等を・・・
・・・自分で追加要望ってどんな手順だ?
「すみません、システムに新たな機能を追加したいのですが、どのような手順になりますか?」
「開発者側からの仕様追加は、そこの紙に必要情報記載した上で、必要数の神印を押して認めて貰う必要が有るよ」
・・・アテナに貰えれば良いのだろうか。
大人しく序列4位以上の神の神印貰ってくるか。
--
「駄目だ、こんなもの必要ない」
「お前達が意見とか、生意気だぞ」
「これが有効である実績を見せてくれ」
「数字で語って貰えるかな」
うーむ手強い。
適当に序列4位の神々に話を持っていったけど、取り付く島も無い。
「大丈夫?オーディン。変わろうか?」
エイプリルが追加要望書を奪い、持っていった。
「貰って来たわよ」
そして直ぐに押印済の紙を持って戻って来る。
「・・・凄いな、どうやったんだ?」
「無益な議論を誘導して、目的を達成するのは慣れてるのよ・・・自慢にならないけどね」
「いや、有り難いよ。凄く助かる」
俺が書類を作り、エイプリルが許可を貰って発行。
これでようやくスタート地点。
・・・後は、これをシステムに組み込むだけ・・・
「ニンゲン様、指示を御願いします」
「βチームは計画11を構築、αチームは計画3から7を頼む。詳細な理論に関する記述は省いたから、分からなければ聞いて欲しい」
「ニンゲン様、γチーム手が空きました」
「計画1と13の構築を頼む」
指示を出しつつ、システムの概要設計や、テストを実施していく。
「オーディン、いつの間にか指示出す立場になってない?」
エイプリルがきょとん、として聞く。
「・・・あれ、そう言えば」
最初は末端でシステム構築を手伝ってた筈なんだが、気付いたらみんな聞きに来てるな。
ともあれ、神々は概念さえ説明すれば高速で作ってくれるので、かなり優秀だ。
システムにどんどん組み込み、リパー達のいる世界にどんどん実装していく。
平行して、数チームを動かし、冒険者達の感想を吸い上げる。
それを元にシステムを改善し・・・
順調だ。
今日も夕方には解散、仕事場を離れる。
「今日も疲れたわね、でも、久々に働いてる感覚で、気持ちが良いわ」
エイプリルが伸びをしながら言う。
「もうこんな仕事とは無縁だと思ってたんだが・・・昔取った杵柄って気がするよ」
元の仕事・・・プログラマーと魔法はやはり相性が良いようだ。
そこに、向こうからウラノスがやって来る。
ふらふらと、おぼつかない足取りだ。
「貴方はウラノス様、どうされましたか?」
「キミは・・・アテナと一緒に居た人間か。最下層に居る・・・と言う事は、箱庭のシステム構築でも手伝っているのかね?」
「はい、そうなんです」
「ふん・・・そうか、アテナも箱庭に行っていると言ってたな。と言う事は、アテナも箱庭関連か」
アテナは俺をだしにして、天界の仕事したかっただけだと思うけどな。
「ウラノス様、その手に持たれている布は何でしょうか?高い神力を感じますが」
エイプリルが尋ねる。
「うむ、これは悪魔を検知する、高性能の魔法布だ。これを持って上層から下層まで降りてきた。悪魔が潜んでいる場所を通れば、色が変わる筈なのだ。それにより、悪魔の潜んでいる場所を特定し・・・徐々に追い詰めてやる」
色は変わってない。
不良品じゃないのだろうか。
ストラスがそっと羽を伸ばす。
布に触れると、布が一瞬で漆黒に・・・そのまま一部がボロボロと崩れる。
残りの部分も、徐々に黒ずんでいく・・・
「まあ、キミ達は安心しているが良い。悪魔は絶対に私が見つける。天界の鉄壁の護りに入り込んだ事、絶対に後悔させてやるからな」
もう布は全体が黒くなりかけている。
早く布を見た方が良いですよ。
ウラノスと別れ、自室に戻る。
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