第40話 聖女

「直ぐに終わらせますよ」


女性が手を振ると、無数の光の槍が現れる・・・強い。

あれでもかなり抑えていたようだ。

恐らく、何かの強化スキルを所持している。

エイプリルより遥かに精密、高速・・・そして強力だ。

ランク差だけではないだろう。


だが。


オルフェンスはニヤリと笑うと、漆黒の指輪をはめる。


「なっ!」


女性が驚きの声を上げる。


「この指輪はよう、俺の話を親身に聞いてくれた親切な人から貰ったのよ。魔法の才能が低ければ低い程、高い効果を発揮するのさあ」


オルフェンスが嬉しそうに言う。


まずい展開だ。


ドウッ ドウッ


オルフェンスが闇の槍が飛び、女性が光の槍を飛ばし・・・光が押し負け、


バギ


女性が壁に貼り付けになる。


ドウッ ドウッ


再びオルフェンスが闇を飛ばし、女性のぎりぎりをかすめる。


はらり


女性の髪が一房落ちる。


「降参しろ、お師匠様ぁ?」


オルフェンスが舌舐めずりする。


「俺ぁ、あんたを好きにしたくてあんたに弟子入りしたんだ。可愛がってやるからなぁ?」


ぐふふ、オルフェンスが低く唸る。


「く・・・」


ギアスロールが光る。

女性が負けを認めたのだろう。


「・・・酷い・・・」


リパーが呟く。

その目からは、涙が流れている。


・・・俺の実力では手を出せない。

にしてもあの指輪・・・まさか悪魔が?


オルフェンスが拘束を解き、女性に近づく。

女性は動けない。

オルフェンスが手を伸ばし・・・


「待ちなさい」


低く、しかし、はっきりした声が響く。

あれは・・・月聖女ミスティックエイダ!

しかし、オルフェンスには指輪が・・・


「げ・・・聖女様ぁ・・・?だが、俺には指輪がある。邪魔をするなら、手加減しねえぞお?」


「先程の条件で私と勝負しなさい」


「・・・良いぜえ、お前も支配して、娼館にでも売り飛ばしてやらあ!」


娼館が有るのかあ。

そっかあ。


〈駄目ですよ〉


アテナの声が響く・・・ってあれ、心読まれてる?!

俺、読まれても問題ないような行儀いい頭の中じゃ無いんだけど・・・


〈気にしては負けです〉


じゃあ気にしない。


それにしても、僧侶系で戦えるのだろうか?

ギアスロールが作成され、勝負が始まる。


「くらえ!」


オルフェンスが闇の槍を無数に放つ、が、エイダに近づいた途端、霞となって消えた。

防いだ・・・?

いや、まるで勝手に消えたような・・・そうか、スキルか。

恐らく、魔法無効化か、闇無効化か何かだろう。


「憐れみ給え」


エイダの言葉が光となり、オルフェンスを拘束する。

魔法勝負?

神力と魔力は区別無いのだろうか。


ギアスロールが発光する。

オルフェンスが負けを認めたのだ。


「ライラを解放しなさい」


エイダが低く告げる。

先程、女性、ライラとの間に作成したギアスロールが燃えて塵となる。


「そして貴方は、」


淡々とエイダが言葉を紡ぐ。


「エイダ様・・・どうか御慈悲を」


ライラが、あんな目に遭ったのに、エイダに懇願する。

やはり、一時は弟子としていたのだ、思うところが有るのだろう。


エイダはライラを一瞥すると、溜息をつき、


「オルフェンス、貴方は、3年間の奉仕を命じます。それが終わればギアスは解除しましょう。友人に預ければ、貴方もまともに更正して貰える筈です」


オルフェンスは応えない・・・が、ギアスの強制には逆らえない。


「それと、その怪しい指輪は回収させて頂きます」


エイダがオルフェンスに近寄ろうとすると・・・指輪は黒い霧となって、虚空に溶けた。


「まあいいでしょう。ついてきなさい」


エイダは再び溜息をつくと、オルフェンスを伴って立ち去った。


ライラも、エイダに頭を下げ見送ると、その場を立ち去った。


治安が低下しているなあ・・・

後、悪魔が薬や魔導具を流通させて、混乱をもたらしているようだ。


「オーディンさん・・・怖いです・・・」


リパーがぎゅっと抱きついたまま、呟く。

俺はリパーの頭を撫でつつ、


「大丈夫だよ、リパー。君は絶対に大丈夫」


そう囁いてやる。

オーディンが見ているのだ。

誰かがリパーに危害を加えようとしたら、瞬殺されるだろう。

幾らでも太鼓判を押してやる。


「有り難うございます」


リパーがすりすりと、頭を擦り付けてくる。

やっぱりリパーは可愛いなあ。


「疲れたね、甘い物でも食べようか」


リパーにしがみつかれながら、ゆっくりとカフェへと歩き出した。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る