気絶してたらいつの間にかゲームをしてた

朝凪 凜

第1話

 ネットゲームを始めて1年程が経った。仕事をして帰ってからすぐにゲームをする毎日。金曜日はそのまま40時間ほどぶっ通しでやることもしばしば。それでも学生ニートには遠く及ばない。掛けてる時間が全然足りないのだ。

 しかし、元々はそんなにゲームをする方ではなかった。今思えばあの時ネットゲームを始めるなんて想像もしていなかった。


 * * *


「ゲームやんない?」

 同期の女の子がそこらへんの人に話しかけているのを目にする。入社後から趣味はネットゲームであることを公言しており、レクリエーションや昼休みに話しかけては断られを繰り返している。

 拒否するように手を振っては追い払われては次を探している。——目が合ってしまった。

「どう? 私とゲームしない?」

 近寄るというより詰め寄られるという表現の方が正しいだろう。ニコニコとはしているが、あまり関わり合いたくない人種だ。

「いや、ゲームとかしたことないから」

 自分も周りと同じようにやんわりと断った、つもりだった。

「じゃあやってみよう! お試しで!」

 既に大体の人に断られてるからか、なんとか引き摺り込もうと必死そうだった。

「でもソーシャルゲームのことじゃないでしょ? 家にパソコンとかないし」

「じゃあ私の貸す! 今日仕事終わったら渡すからうちきて!」

 即座に貸すと言われ、断る理由を探していると

「休み時間も終わりだからさっさと仕事に戻れ」

 昼休み終了の時間は過ぎていた。課長から叱責された彼女はムッとしながら、小声で

「終わったらまた声かけるから」

 そう言って自席に戻っていった。自分も仕事を始める。


 仕事が終わり、彼女の家まで行ってパソコンを借りるついでに色々と設定してもらった。その場で軽くゲームを始める。

 いわゆるRPGかと思っていたのだが、違った。いやそうなのかもしれないが、自分の知識のRPGとは大きく違っていた。剣を持って敵を倒して、レベルを上げてボスを倒す。それが自分の知識にあるゲームだった。しかし、今目の前にあるゲームは違う。

 海だ。自分が戦艦を操縦している。ルールは特になく、何をしても良いらしい。クエストをこなして船を強くするもよし、商人になって武器や生活用品を売買するのもよし、他のユーザの船を攻撃して海賊になるもよし。自由だった。

 まずは何をするにも船を強くしないと話にならないということらしい。身を守るのが最低限必要だからだそうだ。

 船も最初はフリゲート級しか選べない。お金が全然足りないのだ。強くするには戦艦や母艦、輸送するなら輸送艦ほかにも様々な船がある。中には安価な駆逐艦で最高速を狙って逃げ回る人もいるらしい。

「じゃあちょっと外の海に行ってみようか」

 ワクワクしながら操作する。

「外の星系……」

 そう言ってワープアウトすると、画面内に赤い点が沢山……。

「あ、やば。逃げて逃げて」

 赤い点がさらに増えて、こちらに向かってくる。と、一発で撃墜された。

「あちゃー。とりあえず卵は落とされないでね。死んじゃうから」

 ポッドという卵になるまではまだ大丈夫なのだそうだ。だが、既に赤い点の第二波がやってきて——あっけなく命を奪われてしまった。

「えーと……。これはどういう状況?」

 チュートリアルもまともにやっていない自分は何が起きたのか一瞬のことで全くわからなかった。

「まあ、始めたばかりだからペナルティもないし。こんな感じで死んじゃうと能力が下がったりしちゃうから気をつけてね」

 あっけらかんとした彼女は悪びれもせず説明をしてくれた。

「まあ、だいたいこんな感じ。帰ってから新しく始めてもいいし、今日作ったのの続きでもいいからやってみて」

 と言って送り出した。大型のパソコンを持たせて……。


 そんな大変な思いをして持って帰ったのだが、それだけで疲れてその日は寝てしまった。

 翌日。

「どう? どこまで進んだ?」

 朝始業前にいきなり話しかけられ、疲れてすぐ寝たと言うと

「勿体無い! せっかく貸したのに! じゃあ今日家行くから」

 なんて言われれば当然

「いや大丈夫! 今日からやるから!」

 ジト目で見られながらも納得してくれたようで、さっさと戻っていた。また課長にドヤされたくはないのだろう。


「で、なんで待ってるの? 定時に帰ってたよね?」

 新人とはいえ少しは定時過ぎまで仕事をすることもある。のだが、まさか外で待ち受けているとは思いもしなかった。

「あんたの家に行くからに決まってるでしょ。1時間も待ってるとは思わなかったけどね」

 そもそも来る約束なんてしていないのでは、と思ったのだが、朝のあれは手早く切り上げるためだったと気付いた。

「め、面倒くさい……」

 小声で呟いたのが彼女に耳に入ってしまった。

「面倒臭い女だってのはわかってるわよ! うるさいな! さっさと行くの! ほら、家まで行って」

 ため息を吐きながら、彼女と一緒に自分の家まで行き、そして昨日のやり取りを繰り返した。

 それを何日も繰り返すうちに、僕は気がついたらゲームをすることにハマっていった。いや、彼女と一緒にいる口実としてゲームを利用しているのかもしれない。それでも楽しいと思える時間ができたのはやっぱり彼女のおかげだ。

 今日もこれから彼女に会いにネットゲームを始める。

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