異世界人絶対殺すマン
ソルト
第1話 異人狩り
世界にはルールがある。設定というか、不変の法則に似た絶対的なもの。
それを侵すとどうなるか。厳密には正直わからないし分かってない。
ただ、これまでの記録によれば天変地異が起きたり、滅茶苦茶強い魔物が出現して世界滅亡の危機に陥ったりしてきた。らしい。
だからルールは侵せない。設定は覆せない。不変の法則は不変として永劫に維持し続けなければならない。
そうしないといけない。
だから。
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「やれやれ、なんだってまた俺がこんな目に…」
痛むわけでもない首を擦る仕草をして、俺―――石上
この世界…俺がいた場所とはまるで違うこの地、ファウードへやってきてから早三ヵ月。
どうやら交通事故で死んだ後にこの異世界へと連れて来られた(迷い込んだ?)らしいと気付いてからは大変だった。なんでか俺は騒動に巻き込まれてばっかりだし、さらにどうやら死亡直前と同じ体で転生したらしき体には五大属性とやらを全て操れるおかしな能力が付与されていた。
ファウードという異世界においてこれは在り得ることのない異常体質なのだそうだが、正直俺にはよくわからないし、厄介事ばかり引き寄せて来るので良いようには感じられない。
荒事は最小限に留めてきたつもりだったが、時折こうして狙われることも少なくはなく、その度に返り討ちにする手間と時間が俺を悩ませていた。
今だって時刻は深夜、俺のいた世界で言うなれば丑三つ時だ。正直眠たくて仕方がない。毎度の如く俺に引っ付いて寝る癖のある金髪少女だって起こさないようにするのに随分気を配ったものだ。
そして、明かりもほとんど消えた街中。赤煉瓦の壁を駆け上がって屋根へと到達した俺へと凶刃は違わず向けられたまま。
「おい、やめにしないか?俺が何をしたって言うんだよ…」
「……」
夜の闇に溶け込みそうな揺らめく外套の内から返事は来ない。ただ仕掛けるタイミングのみを探り、ゆっくりと腰を落としていく。寝癖で跳ねた髪ごと頭を掻いた。
「悪いことは言わないからさ、不意打ちでもしなけりゃ俺を殺すなんて無理なんだから。闇ギルドの刺客だか名声欲しさに命を狙ってるんだかそれは知らないけど」
俺の口上を聞くこともなく男は外套を剥ぎ取った。その中身は…いない。
(速いな!後ろッ)
これまた転生時に得た第六感能力で相手の気配を感知。屋根の端を伝って背後に回っていた男を敵と認識する。こうなれば手加減は不要だ。
ただ、俺が全力を出しちゃうと街がぶっ壊れかねないから、ちょっと抑え気味にして、
(風属解放【中】!)
五大属性が一つ風属を発動し展開。背面から三つの小型竜巻が吹き荒れて屋根の一部を抉り取った。
「やっべやりすぎた!またこれかよ畜生!」
魔物ならともかく、人を相手にするとどうにも威力の調整が難しい。まさか肉塊のグロ画像にしてしまうわけにもいかないし、ああクソこれだから同じ人間相手は嫌なんだ。
「殺しちまっ…」
慌てて振り返ろうとして、ガクンと足が止められた。
「……た?」
疑問を抱えたまま視線を落とすと、右足の甲に何かが。ブーツを貫通して何かが突き立っている。
ダガー?
「が、ぎっ!?いって…ぇえああああ!!」
肉と骨を押し潰すほどの勢いで、短剣が右足を挟んで刃を深く屋根に沈み込ませていた。
どうして、なんで。奇襲は対応した、やりすぎたくらいだった。敵はもう死んだはずなのにどうして!
(最後っ屁をかましやがったのか、なんて野郎だ!にしたってこんな、馬鹿な。俺の体を深く傷つけられる武器が、しかもこんなダガーの一本で…!?)
とにかくまずはこの深手をどうにかしなければ。引き抜くのは不味いにしても、手早く処置しなければ治癒の魔法でも手遅れになりかねない。
早く戻って仲間に治療を頼まなければ。脂汗を垂らしながらもひとまず屋根ごと刺さった短剣にそっと触れる。
なんだ。呼吸が荒い、激痛のせいか息がしづらい。ヒューヒューと、吸ったはずの空気が抜けていく。逃げていく。
―――あ?どこへ?
「…は、ひゅっ…!こはっ、へ、ひひゅぅ……っ!?」
首からおかしな違和感があった。何か濡れている、首から汗ではない何かが噴き出している。
痛い、痛い痛い痛い!
違う!激痛は…足からだけじゃなかった。
なんでだ、いつの間に。
(首が掻っ切られて…)
「異世界者にしては、弱いな」
すっぱりと切れた首を片手で押さえて蹲っていたら、目の前に人影があることに気付いた。正面に誰かいる。
「ぁ、すぅ…っ」
助けてとすら言葉にできない。必至にジェスチャーで示すも相手は無視。なんでだよ、瀕死の人間がいるのにこの野郎一体どういうつもりだ。
「透化と転移の魔法は知らなかったのか。なんにせよ幸運だった」
「…こふっ」
言動とこの状況で眼前に立つ人影。たった二つで理解した。いや出来なかった俺の思考が既に死んでいた。
コイツ、さっきの黒外套!
(全開放【極だ)
「悪いとは思うよ」
五大属性全展開で塵も残さず消し飛ばそうとした。街への被害を考えてる余裕は無かったんだ。
でもそれすら不可能だった。眉間に深々と刃が沈み、最期。
月も見えない漆黒の夜空を背負った敵の表情は、何故だか俺には見えていた気がした。
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だから俺は敵を狩る。
存在していてはいけないから。
この世界はこの世界の住人だけの分しか容量を維持できない。
それ以上は抵触する。世界の設定に異常をきたす。異邦の住人は紛れもなく、この世界に対する有害の種だ。
だから俺は種を刈る。
一つは世の為。もう一つは俗物的に金の為、生き抜く為に。
俺はこれを生業としている。
異世界の訪問者、その悉くをば殲滅する。
多くは連中を『チート』なる言葉で揶揄し、畏怖し、尊敬する。
異世界人とは疎まれる一方でまた祭り上げられる英雄でもある。
この仕事は、そういう相手を殺すもの。
好かれはしない。だが不要とも断じられない。
『
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