2話 新しい仲間
新しい人を雇おうと父さんが商人ギルドに連絡を入れて数日後、条件にあう人がいたので会ってみないか、という知らせが届いた。早速会いに行くという返答をしたが、問題は誰が行くかということだ。母さんは一緒に働く人の事だし会うべきだと思うが、一家の代表ということで父さんも行くという。
となると、俺とソフィーが留守を預かることになるわけだが……俺は絶対についていくと強硬に主張した。だって心配じゃないか。一度傾いているんだぞ、この宿。
「ルカ、いい加減聞き分けて。留守番をしていてちょうだい」
「いやだ。だって変な人がきたらいやだもん」
父さんも母さんも困り果てているが、この件に関しては譲れない。
「なにをごちゃごちゃやってんだい」
隣から顔をだしたのはウェーバーのおばさんだ。
「いやあの、これから商人ギルドに行くんですけど、ルカが留守番をしたくないって聞かなくて」
「ほう、ルカ、あんたそんなことで母さんを困らせているのかい?」
「そんなことじゃないよ。新しく人を雇うんだ。ぼくだって口を出したいよ」
「ふーん、人を増やすのかい。景気の良いことだ」
「あぅ……」
しまった、企業秘密を漏らしてしまった。だがウェーバーのおばさんは気にした様子もなく言った。
「なら、あたしが留守を預かるよ」
「そんな! 女将さん、悪いですよ」
「そんな時間もかからんだろう。昼時にちょっとあたしが抜けたってうちはなんてことないさね」
そのありがたい申し出に俺たちは甘えることにした。ウェーバーのおばさんとソフィーを残して商人ギルドに向かう。ギルドの紹介所は広場に向かって建っている。こちらも冒険者ギルド同様に大きな建物だが、冒険者ギルドと違って鉢植えや花瓶が飾ってあったりと華やかな印象だ。
「やあやあ、お待ちしていました」
出迎えてくれたのは四十がらみの小太りのおっさんだ。
「バルトと申します。今日はお三方お見えになっています。その中から選んでくれればと」
「よろしくたのむ」
ギルド内の奥を進むと廊下には商談の為の小部屋がずらっと並んでいた。俺たちはバルトさんにそこの一室で待つように言われた。
「三人もいるんだね」
「その中から選ぶのね……」
母さんはどうやら気が向かないようだった。父さんは無言だ。面接関係は苦手らしい。俺は受ける方しか経験ないな。どうしよう。
「失礼します」
そんな言葉とともに入ってきたのはひょろりとした若い男だ。
「あのー……」
「……」
「あっ、はい。では座ってください」
父さんも母さんも何も言わないので、俺が面接官気取りで答えた。しょうがないな。やるしかない。
「お名前は?」
「はぁ……デニス・キルヒナーと申します」
「志望動機は?」
「し、しぼう……?」
「えーと、なぜこの仕事に就こうと思いましたか?」
デニスはなぜかこの場を仕切っている子供に動揺しているようだった。まぁ、普通そうだと思う。
「前の仕事を辞めてしまいまして……」
デニスは前の職場の食堂の人間関係が上手くいかなくて辞めてしまったようだった。厨房の仕事は一通りできるそうだ。思うに、このビクビクした態度が原因だろう。うちはキツく当たる人間はいないだろうし、厨房の奥に引っ込んでいればその辺は問題ないとも思うが、どうもこの仕事を短期の繋ぎと考えているようだった。
「ありがとうございました。合否は後ほどお伝えしますのでお待ちください」
そう言ってデニスを部屋から出すと、空気と化している両親を振り返った。
「もう! なんか言ってよ二人とも!」
「ルカは立派ねぇ」
「あいつは駄目だな。根性がなさそうだ」
母さんはともかく父さんは一応面接はしてたようだ。面接というか観察だな。俺は次の人にさっきと同じ質問をするように母さんに頼んだ。
「こんにちは! エラといいます」
次に入ってきたのは十代後半の女性だった。
「こんにちは……お座りください」
母さん、顔が引きつってるぞ。エラという女性は明るくハキハキとして好感が持てた。お針子をしているが別な仕事を探している、ということだった。こう、華があっていいんじゃないかな。俺はそんな風に思ったが、両親は難しい顔をしている。
「どうしたの? いい人だったじゃない」
「うーん、あのね。あの人はきっと長くは続かないわ」
「だろうな」
「なんで?」
「すぐに結婚しちゃうと思うのよ」
「ああー……」
そうか。その問題もあったか。こっちに雇用均等法なんてないもんね。だったら調理経験のあるさっきのデニスの方が良いって事になるな……。
「難しいもんだね」
「そうだな。さて、次が最後だ」
「失礼します。リタ・フォルトナーと申します。よろしくお願いします」
そう言って入ってきたのは母さんより年上の恰幅の良い中年女性だ。
「よろしくお願いします。お座りください」
母さんが着席を促す。
「この仕事を希望した理由はなんですか?」
「はい、子育ても落ち着いたんで、どっかで働けないかと。こちらは厨房の仕込みの時間の手が欲しいとのことでしたんで……夜はうちも家族がいますし」
なるほど、パートタイム希望か。うちとしては客の出払った後に掃除やら夕食の仕込みがあるからそれはありだ。時間が短い分、賃金も抑えられるかもしれない。
「なら、日給だと銀貨3枚ですが、4時間で銀貨1枚とかならどうですか?家族の都合にもあわせますよ」
突然提案した俺に、リタさんはちょっとびっくりしたようだが、にっこりと笑った。お、笑うとえくぼができる。俺の前世のバイト仲間のミユキちゃんもえくぼのかわいい子だった。思わぬフェティシズムを発見してしまったぞ。
「ええ、かまいませんとも。作れるのは家庭料理くらいなんですが……それでよければ」
「わかりました。後ほど合否をお知らせしますのでお待ちください」
リタさんが出て行ったあと、俺たちは顔を見合わせた。これは決まりだな。長く働けそうで、忙しい時だけ来てくれる。今の
「バルトさんを呼びましょう」
「うん」
俺たちはバルトさんに、リタさんを雇うと伝えた。
*****
その数日後、出勤初日に彼女は娘さんをつれて現れた。
「今日からよろしくお願いします。こっちのは一番下の娘のラウラです。ご挨拶だけでもと」
「こんにちは。ラウラといいます。11歳です」
赤毛の少女が頭をさげる。リタさんは、お土産だとパイを母さんに渡した。
「まぁ、これはご丁寧に。これからよろしく、リタさん」
「よろしくたのむ」
両親が挨拶をする横から少女が俺たち兄妹に近づいてきた。
「私、ラウラ。お名前は?」
「ぼくはルカです」
「ソフィーでーす」
「ふふっ。うちのお母ちゃんをよろしくね」
ラウラという少女は笑うと母親と同じにえくぼができた。あかん、かわいい……。
「よよよよよ、よろしく……」
俺は赤毛の少女に見とれて思いっきりどもってしまった。恥ずかしい……。
お昼にさっそくフォルトナー家伝統の味という彼女のパイを食べたが、香草の効いた粗挽きの肉がたっぷりと詰まったミートパイで、実に絶品だった。母さんの立場が危うい。
「母さんの実家の伝統の味とかってないの?」
まさかあのエンドレススープとかじゃないよね。
「母さんの家は料理人がいたから……料理を覚えたのは冒険者になってからね」
あれ?母さんはもしかしてイイトコのお嬢さん?ってことは調理方法自体、冒険者の野営料理と大差ないってことか……。これはリタさんに頑張って貰わなきゃ。
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