空の記録部

如月菜

彼女は終始周りを警戒する

物語の始まり

俺は朝に弱いほうだ。最低でも八時まで寝ないと気が済まない。しかし、高校はそれを許してくれない。


なんて、俺──時ノ森健示は廊下の壁にもたれてそう思う。


「あれ?健示もそう思った?俺も朝はゆっくりしたいよ」

「何で俺の思ったことが分かった。特殊人間かよ」

「顔で分かる」

「は?」


俺そんな顔してたか?絶対にそんな顔してないししたことも無い。


友人──三枝幸は飲み干した缶コーヒーをごみ箱に捨てた。


「なぁ健示」

「ん?」

「部活は今年も入らないのか?」

「お前も入ってないだろ。俺は単に面倒臭いから入らないだけだ」

「陰キャ………痛っ!足がっ!俺の足がァ!」


下らないこと言った罰だ。俺は引きこもってない。

幸は痛そうに足を抑えた。


「いくら何でも足を踏むことないだろ!」

「自業自得だ。馬鹿かよ」

「何言ってんだ。馬鹿じゃない。お前が阿呆だ」


失言二回目にして俺を侮辱したのでもう一回足を踏んだ──としたかったのだが流石に可哀想なので脚で蹴ってやった。

こういう攻撃にまったくの耐性がない幸は、当然のように痛がっていた。




「痛ったぁ………ははは」

「何笑ってる。あ、そうかお前変態だもんな。とうとうそっち系になったか?」

「何の確証を得てそう言ったのか分からないけどそうじゃない。ただ、健示は何も変わってないなぁって」


俺が?変わってないと?俺昔そんな奴だっけ?


「中学の時から『青春ってなんだろう』って顔してるよ。多分、今に満足してないだろ?」

「そうか?俺は今に不満はない。………良いとも思ったことも無いけど」

「ほら。健示っていつもそんな感じだよ。まぁ基本暗い奴だからね。なんかした方がいいよ」


なんかね………。なんにも取得のない俺には難しいことだな。


「あ、俺そろそろ帰るわ。時間だし」

「なんかあるのか?」

「内緒」


そう言って、幸は軽く手を振って帰っていった。時間は既に五時を超えていた。

まだ四月の初めだけど少し肌寒いな。俺の寒がりのせいかもだけど。



暇だし、俺も帰ろうか。教室に何故か残しておいたスクールバッグを持って、校庭に出た……………と思ったけど、なんか鞄が動かない。俺も動かない。

誰だよ。幸か?俺は振り返った。


「……………」

「……………?」


女子だった。しかも誰だし。こんな奴、俺の学年にいないぞ………?

いや、名札見たら俺の学年を示す青色だった。いやホントに誰?

俺が考えていると、その女子は急に俺の鞄を離した。


「あ、あの………!」

「……………ん?」

「うぅ…………」

「?」


いや声の小ささよ。もしかして例に言うコミュ障か?



「あの!私が作った部活に入りませんか!」



………は?お前が作った部活?いやその前に………。


「すまないが俺はお前のことを知らない。誰?」

「あ、すいません………。私、転校生の空あおはです」

「空あおは?」


あ、今思い出したわ。今年の三月に転校してきた人か………。すっかり忘れてた。


「ああ、転校生ね。慣れた?」

「まぁまぁですね」


まぁまぁ?ここの学校歴史古いぞ?そんなことよりだ。


「部活ってなんだよ」

「あ………そうですね。完全に忘れてました」


忘れるなよ。大事なこと。


「私、生活指導の谷原先生に手伝ってもらって作ってくれたんです。『相談部』っていう悩みを解決するっていうありきたりな部です」

「『ありきたり』って………自分で言う?」


そもそもそんな部活アニメや小説の世界でも少ないと思うぞ?


「先に言うけど俺は断るぞ。面倒臭い」

「えぇ………。どうしてですか?」

「面倒臭いから」

「本音は?」

「面倒臭いから!」


ちょっと怒りそうだったよ僕。そんな責めてくる?


「ちなみに三枝幸という人が快く受けてくれました。健示君も谷原先生がやたら薦めてくるので」


幸?お前「部活は俺のヨゴレ」とか言ってなかった?

谷さん。あなたもすごいですね。俺にとって不利なことしかしないですね。


「………無理ですか?やっぱり」

「うーん………」


別に俺が引き受けることは義務じゃないしなぁ………。

空が俺をずっと見てる。………照れるからやめてくれ………。


えー………。まぁ、いいかなぁ………?


「………んじゃ分かったよ。受ける」

「本当ですか?」

「まぁな」

「心から言ってますか?」

「さぁ、部活はやめて帰ろ」

「嘘です!嘘です!」


何その聞き方?悪意しかないだろ………。


「では明日。相談室に来てください。お待ちしてます」


そう言って、空はせっせと帰っていった。


………うわぁ………俺らしくねぇなぁ。いや、俺らしいってなんだよ。とりあえず、幸に報告しようかな。


「………幸か?俺だ、健示。部活に入りました。以上」


報告終了っと。電話の幸はすごい驚いてたが。


俺の『青春』はここから始まる──のかなぁ?

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