33話 力合わせて
戦いなんて嫌いだ。痛いのはすごく嫌だ。だから僕は、この世界で自由になってから、全部を他人任せにしてるんだ。そのための努力なら多少はする。
当然、『魔狩り』の仕事に情熱を持ってるわけはなく、持っているならダーリアとは組まないしミミカも消し去っただろう。
ただ楽に生きたい。それだけなんだ。
そう思って行動することは、とても重い罪なのかもしれない。
でもこの罰はあんまりだと思います。身勝手なのは僕だけじゃないんだから、この罰を平等にみんなで分け合おうじゃないか。
ヴォルノは背中に、大きな炎の翼を生やし、それを僕たちに向かって扇ぐように動かした。
それだけのこと。それだけのことでも、悪炎の王を名乗る魔界の使者。
全身を焼き焦がすほどの熱波が、僕たちに向かって吹き荒ぶ。
「ミミカ、回避だよ」
「言われなくても!」
炎の翼が生み出す灼熱の風。それをダーリアは、ヴォルノが翼を生やした時点である程度察知していたらしい。
ここは岩場。人の身体よりも大きな岩がそこらじゅうに転がっている。ダーリアはそれを盾代わりに利用して、熱風を免れた。
ミミカは単純に、空へと上昇して逃げてみせた。三次元的な動きが易々とできるからこその回避方法だろう。
「ぎゃああああああああああああッ!?」
ちなみに僕は避ける方法も技術もなかったので、素直に熱風の直撃をいただいた。
全身をくまなく焼かれた僕は、その場に崩れ落ちる。身体が異様に焦げ臭い。
ただの人間なら即死は免れない高熱。まるで風の爆発だ。
「あぁ、すまない我が主リムフィ。しかし平気なのだろう? 巻き込まれたくなければ離れていてくれ」
悪炎の王なんて言う割には、気遣いができるじゃないか。僕をこんがり焼く前にできたらもっとよかったのに、惜しかった。
全身火傷はみるみるうちに回復し、すぐに動けるようになる。早くこの場から離れなければ、また僕は痛い目にあう。
「ミミカッ! 上から全力で魔術射撃! 危険なら防御もしくは回避!」
「後半二つは、ダーリアに言われなくてもやるの!」
……まて。僕が逃げてしまってはダーリアとミミカはどうなる?
どうなるも何も待ち構えてるのは死だ。焼死体で発見されるか、灰となっているかのどちらかだろう。
それはよくない。僕の、特にこの従者二人が消えるのは、これからの僕の人生プランに大きくヒビが入るだろう。
戦いに割って入る勇気は微塵もないから、二人には是非とも頑張っていただきたい。
ダーリアは右手におなじみの
ダーリアは岩陰から姿を現して、すぐに走り出す。敵の攻撃の観察と警戒。いつでも隠れられるように岩の近くを速やかに走っている。
様子を伺っていると同時に、挑発をしているような節がある。様子見であそこまで動く必要はあまりないからだ。
「『
聞き覚えのあるミミカの魔術の詠唱は、空から降って来た。得意なのかお気に入りなのかは定かでないが、ミミカはあの魔術の使用頻度が高いと思う。
ミミカの魔法陣から放たれる、暗黒に染まった異形の手。
その数は10本以上、いやそれ以上にもみえる。
とにかくたくさんの腕が、空からヴォルノに襲い掛かる。
「その程度の魔術ではな、やられはせん」
炎の翼を動かして、暗黒の腕の群れを焼き消した。さらにヴォルノは炎の翼をグンッとミミカへと伸ばす。伸縮自在、あの炎の翼は驚異的だ。
「その程度の攻撃では、私たちは殺せないよ」
――伸びた炎の翼は、ダーリアの剣によって断ち切られる。いつダーリアが移動していたのかわからなかった。いつの間にか、ヴォルノへと近寄っていたのだ。
ダーリアの
断ち切られた炎の翼は消滅し、ミミカは事なきを得る。前に致命傷を負わされた魔術に助けられたということになる。
「人間はずいぶんと素早いな? 魔術による恩恵か?」
「当たり前だよ……ミミカ、休まず攻撃。コイツを休ませるな」
「わかってるの」
ミミカは上空でまた魔術を行使、先ほどと同じ黒の腕がヴォルノに迫る。
今度はダーリアが近くにいる。同じように黒の腕を処理してはダーリアに斬撃を受けることになる。
ヴォルノは一瞬、どちらを優先すべきか戸惑った。ダーリアを攻撃するか、ミミカの攻撃から身を守るか。
その判断の遅さは、ダーリアたちにはチャンスとなりえる。
「――もらったよ!」
ヴォルノの炎の身体が、ダーリアの剣によって裂かれた。僕には、悪魔を倒す勇者みたいにダーリアの姿が輝いてみえた。
「ぬぅ……!?」
「浅かった……なら!」
また一撃、斬ればいい。それでもまだ足りないなら、また斬る。
――殺しきるまで。
それだけしか考えちゃいないと、言わんばかりの追加攻撃。
剣で行えるあらゆる殺害方法を、手心なくダーリアは放っていく。
「セイハァァァァァァァァァァァァァ!!」
一振り、二振り、三振り……僕の眼にはもうそれ以上は数えられなかった。まさしく目にもとまらぬ速さ。ダーリアの剣が、炎の悪魔の肉体を抉っていく。
辺り一面、血飛沫はなく、そのかわりのように火の粉が飛び散る。
「やるではないか人間っ……正直侮っていた」
ダーリアの剣の猛攻で、悪魔をかたどった炎は全て打ち払われた。残ったのは、中身であるヴォルノ本人。藍色の髪をした可憐な幼女。
「だったら私に詫びて死ね」
「ミミカも忘れちゃ困るの」
ヴォルノの上空、ミミカが空を支配している。ダーリアの剣によってヴォルノは気を取られていた。
制空権はダーリアとミミカのチームにある。制空権をとったなら、後の戦いはワンサイドゲームになるはず。少なくとも僕はそう思う、ちょっと軍事方面の事を趣味にしたことだってあるからね。戦争の歴史は意外に楽しいのです。
「『
ミミカは空にいる。魔法陣がさらに上に出現した。
僕はこんな大きさの魔法陣を今まで見たことない。いつもの手のひらサイズとは段違い。
精々、人の身長くらいの大きさの魔法陣しかみたことないから驚いた。
詠唱が長いということは、強力な魔術が放たれるということ。
長ったらしいのは弱点なのだろうが、ヴォルノは邪魔しに行けない。ダーリアが必死こいて剣を振り回し、ヴォルノを繋ぎ止めている。
ヴォルノの炎による反撃も、ダーリアはギリギリで回避し続けていた。
凄まじい集中力がなければ、すぐお陀仏。ダーリアはできているから、剣で攻撃なんてしていられるのだ。
「『
ミミカの詠唱が終了したと同時に、ダーリアは攻撃を中断し、一気に後方へと下がる。ヴォルノと物理的に距離を取ったのだ。
距離を取らねば、巻き添えを喰らうから。
「……何!?」
初めて、ヴォルノが焦りをみせた。
上空には無数の、氷山。氷塊なんてちゃちなものではない。
氷山がまるで、空に輝く星のごとく浮いていた。
「悪炎の王様でも、この数の氷山を溶かしつくすことはできるの? さっきのダーツとはすべてがレベルアップしてる。覚悟するの」
ヴォルノの身体に残っている炎は、まだあるにはある。
最初の悪魔のような姿は全てダーリアに削り取られてしまった。それがないと、ただの青色の少女でしかない。
これをチャンスと捉えずしてどうするか。
ミミカは一斉に、氷山をヴォルノへと投下した。休むことなく次々とありったけを。
氷山の流星、隕石。これぞ地獄の光景だ。
マギノ山の形が変わってしまうのではないかと思うほどの凄まじい地震が起きる。すべて氷山が落っこちまくっているせいだ。
「ははッ! 来い! こういう体当たりの観測も悪くないィ! アッハハハハハハハハハ!」
ヴォルノの叫びは途中までしか聞こえてくることはなく、降ってくる氷山にヴォルノの小さい身体は潰されてしまった。
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