30話 肉壁
焼いたというのは、殺したということなのだろう。エノルさん一行は全滅だろうか? ロイナさんとシャナフさんは遅れて合流したはずだから、まだ生きてるかもしれない。
きっと頂上ではエノルさん達の生き残りをかけた熱いドラマがあったのだろう。
もしかしたらロイナさんとシャナフさんが窮地に駆け付けて、エノルさんとバローガさんを連れて何とか逃げ出したとか……ギリギリのところで助けられず、エノルさんとバローガさんの最後を看取ったとか……。
なんか面白い
目の前にいるこのファイヤーな幼女に焼かれてしまったという結末。あまりに物悲しい。
「ねぇ……ヴォルノさん。これから僕をどうするおつもりなのでしょうか?」
「焼き殺しても構わんが、あまり殺しを過ぎると人間という生物の観測に支障をきたすからな……考え中だ」
できればそのまま考え中であってもらっていい。永遠に保留で構わない。
「うーむ……お前の不死身はどれほどのモノなのか興味がある。少し試してみようか」
言うが早いか、次の瞬間には僕の上半身は焼却され、消し炭となっていた。悲鳴を上げようにも顔がないから何も言えない。ただ下半身だけが後ろに倒れる。
この状態でも僕に意識はある。口はないから喋れないけど。
そしてまた、ヌルヌルしていそうなスライムが僕の身体を再構築して元通りに。
「おい!」
「
すごく何気ない一言だけど、ミミカが言っていた懸念事項は解消された。どうやら僕は
「完全に消滅させてみるか」
「待ってそれはッ――」
冷酷で冷徹な判断。僕の制止の言葉は届くことなく。
――僕の身体は炎によってまるごと滅び去った。
……身体は消えている。なのに意識が消えない、途絶えもしない。現世から完全に僕の身体はなくなっているのに、意識だけがある。
さて僕はどうやって再生するのか? 身体の一部が欠損したとかそういう次元ではないこの消滅に、僕の不死身はどう対処するのでしょうか? 僕にもわからない、ここまで完全に灰になって消えたことはないから。
「……あれ?」
どうなるか意識だけでワクワクしていたら、いつのまにか僕は実体を取り戻していた。身体があるという実感が急に湧いてきたのだ。
眼もある鼻もある口もある耳もある手も足も何もかも、ある。五体満足でここにいる。本当にいつの間にか。
「……度を超えている……もはや現世の生物でも魔界の生物でもなく、命そのものを超越しているか……?」
なんかスケールのデカそうなことを言ってるヴォルノは、僕の目の前で愕然としていた。
「この世界に命が固定されているとでも言うのか? 歴代の魔界の王でもそんなことはできた試しがない……。永遠の命は魔界の生命にとっても、現世の生命にとっても最大に渇望しているもののはずだ……それをこんなところで拝めるとはな……」
「あ……あのぅ」
「我は神に出会ったのか……」
待て待て! ストップ! 飛躍しすぎだ!
神っておい。僕は一般人だぞ。死なないってのは神様にもなれる素質なわけ? それなら僕を造り出したグラミルムのジジイは何者なんだよ。
「無礼を働いて申し訳ありません……我は魔界の王となって、いささか図に乗っていたようです……どうか……処罰を」
幼女が跪いて僕に頭を垂れている。これってすごく変な誤解を生みそうな場面じゃないか? 幸運にもダーリアもミミカもいないようだけど。
ン? この悪炎の王とやらは僕を神としてくれたのか?
もしかして、このヴォルノとかいう幼女は、僕の味方になってくれるかもしれないな。
「……見つけた……よ!」
そんなことを考えていたら、大きな岩の陰から今度は聴き慣れた声がした。僕が初めて仲間っぽいのにした女の人。
やたらと怨みの籠った声だった。
「ダーリア!? 生きてたの!?」
「やぁリムフィ君、なんとか生き延びられたよ……そのクソのせいで少し火傷はあるけど動くことはできるよ」
「……何故生きている? 我の炎は確かに貴様らを焼いたはずだが?」
「盾になって庇ってくれた人がいてね。君は人数を確認すべきだったよ」
現場は見ていないけど、誰かを盾にしたんじゃないか?
ミミカは盾になるような実体を持ってないから、エノルさん達のうちの誰かが犠牲になってるはずだ。
「悪炎の王とか言ったね……よくもやってくれたよ」
「我に攻撃を仕掛けてきたのはお前らが先だろう。正当なる防衛だ」
「待ってくれ、話についていけないから説明してくれ」
ヴォルノとダーリアの間で火花を散らしているけど、まったく状況というか、二人の因縁が分からないから蚊帳の外になっている僕。
「我が主よ、我は観測をしにきたと言っただろう? それを言っても聞かなかったのが彼奴等なのだ。問答無用といって、我に攻撃してきたのだ」
我が主って呼ぶのは止してほしいけど、正直気分が良いな。そこまで他者に敬われることなかったから嬉しいかも。
「魔界から
「今のところは現世への侵攻の予定はない。魔界はそこまで好戦的な者達ばかりではない。我は現世を見極めるべくやってきたのだ」
「そんなこと、誰だって信じる訳がないよ」
ダーリアは
「人間というのは、悪炎の王たる我の力を知らぬようだ。お前はすでに知っているはずなのに、学習するということもわからないか?」
青色の炎が燃え盛る。さっきよりずっと激しく。
近くにいる僕の身体がチリチリと焼けてしまうほどの火力。直撃すれば人体は炭になってしまうだろう。
分が悪いどころの話ではなく、どう考えてもダーリアに勝ち目はない。剣と魔術を駆使しても、この悪炎の王ヴォルノに勝てるとは思えない。
勝てるとは思えない。このままダーリアが挑めばヴォルノに消し炭にされるのは間違いない。そういう確信はあった。
だから今のうちに聞きたいことは聞いておこうと思う。
「ちょっと待って! ダーリア! エノルさんとバローガさんはどうなったの!?」
「私の盾に……なってくれたから、死んじゃったよ。ロイナさんとシャナフさんはどこにいるの? 君と一緒だったはずだけど」
……あぁその言い方……やっぱり盾にしたんだ。
『魔狩り』としてかなり強かったはずの二人を盾にしたんだこの殺人鬼は。
しかし希望がないわけではない。今のダーリアの答えだと、ロイナさんとシャナフさんは生きているということになる。
ダーリアとは入れ違いになったのだろうか? 彼女たちは頂上に向かったはずだ。
「リムフィ君も強力してよ。このクソは、ここで死なないといけないヤツだ」
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