27話 仲間たちと
僕たちはそこそこ急いで、街へと向かう。
山のふもとと街は大きな門で区切られていた。その門のところに、武装をした人達が4人ほど集まっている。
「……何なの? お祭りか何かで?」
「リムフィ君、そういう変なボケはいらないよ。『魔狩り』の人たちでしょ、対応が迅速でとても喜ばしいことだよ」
逃げることを諦めていなかった僕としては、その迅速な対応に舌打ちをしたくなる。これで完全に逃げ場がなくなっただろう。
「ミミカ、あの人たちに察知されないようにこそこそと隠れてて。見つかると面倒だから」
「言われなくてもそのつもりなの」
そう言って、ミミカは後ろに下がって姿を消した。上空は炎で満たされているから行けないのだろう。
ミミカの存在は、魔物にかなり近いはず。本人が違うと言っても、人間からすれば幽霊的なモノは魔物にしかならない。
ミミカもそれを理解しているようで、特に口答えすることなく従った。
「おーいそこの二人組! もしかしてマギノ山に行ってたのか!」
あぁ、呼ばれてしまった。4人とも僕たちをみてる。
ダーリアと共に4人のもとへと走る。急いでるふうを装って。
「はい、トロールを討伐しようとしていたんですけど……急にあの炎が山の頂上から出現してきまして……」
こういうことは全部ダーリアに丸投げ。僕は報告、連絡、相談が壊滅的に下手だ。元社会人としてすごく駄目なことだが、そんなことを言いだしたらリムフィとしての人生はもうドクズだ。
「なるほど……やはりマギノ山からか」
男2人、女2人の『魔狩り』さんのパーティ。
エリートみたいな騎士風装備の若い男とベテランな感じの老剣士。そして、ローブを着こんだいかにも魔法使いみたいな少女に、やけに面積の少ない鎧を付けた肌色多めの拳闘士みたいな若い女性。
僕が夢見たパーティそのまんまのメンツ。今すぐダーリアとミミカを消して、このメンツに仲間入りしたくなる。
「あぁ、そうだ自己紹介が遅れたな。俺の名はエノル、ランクは『3』だ。ニアマギノで『魔狩り』をやってる。コイツらは俺の仲間で、一緒にあの異常事態の鎮圧に来たんだ」
「私はダーリア、ランクは『4』です。こっちは教育期間中のリムフィ、ランクは『9』です」
ダーリアが気を利かせたので、僕はかるくお辞儀をする。自己紹介は得意じゃないからこういう風にしてくれるとすごく気持ちが楽になる。
「ダーリアさん……あの炎についてですが……何かわかってることがあれば……教えていただけますか?」
魔法使いみたいな少女がオドオドしながら質問してくる。小柄で可愛らしい少女だ。
「すいません、私たちにもあれが何なのかはよくわかりません。
「そうですか……あっ私はロイナっていいます……ランクは『4』です……」
よし、ロイナさんね。覚えたよ。魔法使いっぽい子はロイナさん。ミミカと違ってちゃんとした人間の、可愛らしい女の子だ。紫色のぶかぶかのローブが愛らしい。それっぽい杖もしっかりと握りしめちゃって、本当に愛らしい。小動物みたい。
「あ、じゃあ私も自己紹介しなきゃね。シャナフだ。ランクは『3』。よろしくね」
大人の色気を隠す気がない格好をしたのがシャナフさん。ビキニアーマーみたいな凄まじい鎧を身に纏っている。グラマラスで活発そうな女性だ。ダーリアみたいに裏がなければ最高に好みかもしれない。
……下心はできるだけ隠さねば。自分の股間を自由に操る術を身に着けてこそ大人というもの。勝手に動いたりさせないぞ。
「……バローガ、ランクは『3』だ」
残りのおじさま戦士、バローガがそう名乗った。寡黙なお方なのだろうか。ベテランな感じは格好いいと思う。剣と鎧の使いこんでる感じが僕のツボを押さえてる。
ぶっちゃけ、男にそんなに興味はないね。どうでもいい。
「うーん……見てきた本人たちがよくわからないってんじゃあ、どうしようもない。やっぱり火元まで行かないと全貌はわからないな」
エノルさん率いるこのパーティは、僕より遥かにランクが高い。ダーリアと同じくらい強いのが4人も加わったのなら、もう恐れることなど何もない。
「帰って来たばかりですまないけど、火元まで案内してくれるか?」
案内、つまり手伝えってことだと予想する。僕は絶対嫌だ。
「わかりました、案内します」
周囲からの評価を大事にしてるからって、即答はない。少しは考えてから答えてくれ。僕も行くことになったらどうしてくれる。
「ありがとう、助かる。リムフィ君だっけ? 君は街に残って、もしもの時に避難誘導を頼みたい」
……お? やっぱり新人を連れていくわけにはいかないらしい。これはラッキー。喜んで街に居させてもらう。避難誘導をするかはわからないがね。
「いえ、リムフィ君も連れていきましょう。彼はこの地元出身で、あの山のこともよく知っているそうなので。それに、あれが噴出した正確な位置を知っているのは彼だけです。私は離れたところにいたので、詳細な位置はわからないんです」
おい、なに巻き込もうとしてんだダーリアさんよ。嘘ついてんじゃないよ。
「そうなのか……しかし……まだ新人の彼を連れていくのはな」
「私が責任を持ちます。リムフィ君が死ぬようなことにはなりません」
心強いようなことを言ってるけど、この女は僕が死なないことを知ってるのだから何一つとして感激しない。
「そうか……リムフィ君、来てくれるか?」
超速く訪れたラストチャンス。いいえ、と言わなければ連れていかれてしまう。
だが、このものすごく言い難い雰囲気はなんだ? エノルさんもバローガさんも、ロイナさんもシャナフさんも、僕を見つめてくる。瞳によるマジな圧力を感じたのは初めてだ。
「……はい、いきます」
ちくしょう、女の子に見つめられるなんてそんな奇跡的なこと、リムフィになる前には全くなかったから、耐性がなかったんだ。僕の純情はとても素直。
こっそりニヤリと笑っているダーリアの横顔が目に入って、とても不愉快。
「ありがとう。勇敢なことだ。期待の新人だな」
エノルさんは僕を賞賛してくれたようだけど、僕はそんなに喜べない。ダーリアに乗せられて、こんな判断をせざるを得なかったのだから。
今だって、行きたくないって気持ちは変わらない。ロイナさんとシャナフさんがいなかったら断ってた。見栄っ張りな自分が憎らしい。
「よし、じゃあさっそく行くぞ。いつこの炎が落っこちてくるかもわからないからな」
リーダーらしいエノルさんがそう言うと、他の3人も頷いて走り出す。このノリは僕たちにはない。欲しくもないけど。
「……ダーリア、あとで喧嘩しようか」
「いやー、リムフィ君かっこよかったよー。素敵だったー」
小声でダーリアとそんなやり取りをしていると、後ろのほうからクスクスと笑い声が聞こえた。ミミカも笑ってやがるようだ。とんでもなく不愉快。
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