第2話 日常の瓦解【下】
PM12:35 LAS支部
昼になったから私たちはご飯を食べに支部に戻ってきていた。
二階の食堂に着いたとき、ルナは激しい眠気を訴え、自室に戻った。彼女の活動は月とリンクしている。月が出ているときは起きていられるが、雲に隠れたり日差しが強くなると彼女は寝てしまう。一度眠ると二時間は目覚めない。
「なかなかルナちゃんと遊べないね~」
「そうだな…今日は何時に起きてた?」
「ん~、少なくとも私が目覚めたときには既に起きてたよ~」
そうか、やっぱり夜はずっと起きてられるんだな…それは今も昔も変わらないな。
リーナは以前、ルナに「私も夜型になるよ」と提案したが「あなたにはあなたの生活リズムがあるからダメ」と断られた。「それにフレンズはみんなが同じである必要はないじゃない。みんな違って、みんな良いの。だから無理に私に合わせる必要はないわ。」と、ここまで言われてしまってはこれ以上無理に案を通すわけにもいかず、仕方のないことだとリーナは割り切っていた。
しかし、このままで本当にいいのだろうか。彼女は俗にいう「夜行性」というタイプだが、それにしては妙に極端だ。普通の夜行性のフレンズが昼間に起きてたらきっと、私達でいうところの徹夜にあたるのだろう。目をこすりながらなんとか起きていられる。しかし彼女は、月が雲に隠れただけでこのありさまである。若干のタイムラグはあるものの、それでも日常生活に支障をきたすのも時間の問題かもしれない。ここの支部の人たちもパークの人たちも原因解明と対策に努めてはいるが、なかなかその効果は表れない。
「どうしたの?大丈夫?」
ヤマドリの声でハッとすると、目の前にヤマドリの顔があった。
「うわっ!近っ!?あぁ~、びっくりしたぁ~」
「えへへ、ごめんごめん。で、どうかしたの?そんなに思いつめた顔してさ。」
ここで私一瞬躊躇う。あのことをヤマドリに話してもいいのだろうか。ルナが起きたくもない夜に独りで起き続け、孤独に生活しているということを。
「じゃぱりまん、いらないなら貰うねっ!」
「うぇ?あ!ちょ!」
横からスッと持っていかれてしまった。やっぱりヤマドリには敵わないな、と思うリーナだった。
PM 1:25 LAS支部 中央管理室
「みなさん!大変です!」
昼食も終え、午前の分のレポートを提出していると、一人の男が何やら慌てた様子で入ってくる。彼は私の部下だ。いったいどうしたのだろう。
「ホートクエリア北東部にセルリアンが複数発生!しかもこれまで観測されなかったタイプのものです!」
「なんだと?」
支部長が驚きの声を上げる。
「監視カメラの映像で確認は取れるか?」
「はい!可能です!NE-072とNE-075に映っているはずです!」
「わかった、各員確認を急いでくれ。確認が取れ次第、パークに連絡するんだ。」
「「了解!」」
北東部となると、私の担当エリアだ。あそこは森で覆われていて関係者以外は立ち入り禁止になってるはずだから避難指示はいらないか…いや、一応フレンズがいることも考慮して行動した方がよさそうだ。
「支部長!」
「どうした、イザベラ。」
「北東部は私の担当エリアです。立ち入り禁止になっているとはいえ、フレンズがいる可能性はあります!」
「ふむ、確かに…」
「私が現地のハンター達と確認を取ってきます。よろしいでしょうか?」
「……わかった。ハンターには私の方から連絡をしておくよ。だが、十分に気を付けてくれ。」
「了解しました。」
PM1:55 支部寮ルナの部屋
「なんか、外が騒がしいね。」
「ほんとだ、何かあったのかな?」
外を見ると支部の職員たちが慌ただしく行動している。この寮の廊下からもなにやら急いでるような様子でドタバタと職員たちの足音が聞こえる。私たちは昼食後、ルナが寝ている自室に来ていた。
「う~ん、そろそろ2時になるなぁ。そろそろ起きないかな?」
「寝たのが12時半くらいだからあと三十分くらいだね。」
「そっか~」
私とヤマドリが他愛もない話をしていると、ドアをノックする音が聞こえた。
私は「はーい」と返事をして扉を開けた。そこにいたのはイザベラだった。
「あれ、イザベラさん。どうしたの?」
「実は…」と、イザベラが事の顛末を話し始めた。
「えぇっ!?セルリアンが!?」
「そう、だから貴方達には私の護衛を頼みたかったんだけど…ルナはまだ寝ているようね…」
護衛。それ自体は別にいいが、ルナが起きてないとなると私一人で戦い抜けるかわからない。護衛自体は私たちがここに住まわせてもらってるお礼みたいなもので、たまに他の職員と一緒に行動することもある。言い出しっぺはルナだ。勿論私もそれに賛同している。
「わかった、私でよければついていくよ。ヤマドリはここで留守番しててくれ。」
「え?私も行くよ!」
こういうことには臆病な性格だったヤマドリにしては珍しい発言だ。でも、わざわざ危険だと分かっているところに連れていくことはできない。
「いや、危ないからだめだ。」
「私だって戦えるよ!」
そういって彼女はフレンズ固有の武器である短剣を具現化した。普段の私ならそれでも止めるはずだったが、それを見て私の気は変わった。変わってしまった。
「…わかった。でも、無理だと思ったらすぐ逃げるんだぞ?」
「わかってるって!あ、ちょっとトイレいってくるね!」
と、彼女はこの部屋を出て行った。
「止めなくてよかったの?」
イザベラに聞かれる。当然の疑問だろう。
だが、私にはかつての友人の姿と、ヤマドリの姿が重なって見えた。
「あぁ…似てたんだ。彼女に。まるで生き写しじゃないか。」
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