第1章 月と太陽

第1話 日常の瓦解【上】



__AM10:00


 晴天の下、とあるフレンズが何やら嬉しそうに先を急ぐ。

 とあるフレンズ、とは河童のフレンズ「リーナ」のことである。彼女は、旅先でパーク内にある〈ナリモン水族館〉というパーク内でも非常に大人気の水族館のチケットを入手したのだった。


「ナリモン水族館のチケットもらっちゃった…!あいつら、絶対喜ぶだろうなぁ!」


と、友人達のビックリする顔を想像しながら、嬉しそうにLASAPO支部に向かうのだった。



__LASAPO支部



「あっ、衛さん!」

 と、支部に着くなり警備員である守野衛もりの まもるに声をかける。彼はこのパークの職員の一人で、とても寡黙だ。普段は滅多に喋らないから、怖がるフレンズも多いけど、彼は内面とても良い人であるとリーナは知っていた。


「…!リーナか。どうした?」


 彼は少し驚いた様子で返答する。今日リーナが戻ってくるとは思っていなかったのだろう。


「ヤマドリと、ルナを見なかった?」


「そういえば…一時間くらい前に裏の湖で遊んでくるって言って外に出て行ったな」


「なるほど、サンキューな!」


「あぁ、気を付けて行って来いよ」


「分かってるって!」


 …なんだかんだ彼は優しいのだ。



__ホートクエリア、オクバネ山脈 麓の湖



「あ、いたいた!おーい!二人ともー!」


 リーナが声をかけると、湖の木陰で休んでる二人が反応する。


「あら、リーナじゃない。パーク一周の旅はどうだった?」


 このお淑やかな口調のフレンズがルナ。フレンズ化前は私と同じく伝承の存在だったらしく、なんでも月の兎だそうだ。


「あっ!リーナ!おっひさ~!」


 そして元気いっぱいの笑顔を向けてくるのがヤマドリ。最近生まれたばかりで、様々なものに好奇心を示す。


「めっちゃ楽しかったぜ!それとな、これ!ナリモン水族館のチケット!」


「すごい!どこで手に入れたの?」


「旅先で知り合った人にもらったんだ…あれ、フレンズだっけ…?」


 うん?どっちだったけ…?髪型がフレンズっぽかったけど…カメラマンって言ってたし…まぁいいか。


「ふふ、そういうところがリーナらしいわね」


 と、ルナにおちょくられる。彼女は一見穏やかな性格に見えるが、実際は私たちと悪ふざけしたりとノリが良かったりする。


「なんだよー!忘れっぽくて悪かったな!」


 一応反抗しておく。一応。


「それで!いついくの!?」


 ヤマドリが今にも行きたそうな顔をしている。私とルナは以前観光したことがあるが、ヤマドリからしたら未知な場所である。といっても私たちの話を幾らか聞いているのでそこが楽しい場所と分かっているので今すぐにでも飛び出しそうである。


「ん、じゃあ明日には出発するか?」


「あら、意外と早いのね」


「善は急げ!ってな!」



LASAPO支部  __AM11:55



「衛、あの子たちを見なかった?」


 そろそろ彼女達…フレンズ達の昼飯時だ。私は中央管理室から出てきた衛に声をかける。少し早い気もするが、どうせ探している間に丁度いい時間帯になるだろうと思っていた。


「...あぁ、あいつらなら少し前に裏の湖に遊びに行ったぞ。」


 彼はぶっきら棒に言う。相変わらず無表情だ。


「...なんかあったのか?」


「いえ、そろそろ昼飯時だと思って」


「もう昼時か...」と、彼は手元の書類を見る。


「それは?」


 彼はここの警備員だが基本的に仕事がないのでここの情報部としても活動している。だから書類を持ち運んでいることに違和感はないのだが、彼女たちの居場所が早くにも分かったので、その分暇になってしまった。そういえば衛とはあまり会話したことがないな__とイザベラは無口な彼と世間話をしようとした。


「あぁ...今週分の気象データの提出にな。でも、一部記録ミスがあるみたいだ。」


「記録ミス?どこの?」


 まさか私が担当してる地域じゃないでしょうね…と思いながら衛に聞き返す。

彼は書類をパラパラと見返している。


「あー、ホートク南西のトコだな。」


 私のところではないようだ。正直、自分の仕事には自信を持っているから、彼の回答は意外ではなかった。


「南西…あぁ、佐々木のところか。」


 彼にも覚えがあるようだ。

そうこうしていると正午の放送が鳴る。私たちも休憩の様だ。


「じゃあ俺はこれで。」


「えぇ、私も彼女たちを呼んでこないと。」






つづく_

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