勝手な思い込み

微睡

第1話


ガコン


自動販売機が、音を立てる。


買った水のペットボトルが縦になっていることに気付き、イラッとする。


そして、同時に気づく。


「ストレス溜まってるかな。」


こんなことでイラつくとは。


慣れない業務、詰め込まれる仕事、話を取り合わない上司。


そしてなにより安い給料。


原因が色々と詰まっているのは分かっている。


多分、この会社ではやっていけないのだろう。


なのに、残っている。何故、というと、今辞めると会社が困るから、だとか、仕事を探すのがめんどくさいだとか多分そういうことなんだと思う。


はぁ、と溜め息を吐く。今日はもう帰ろう。

頭が回っていないのに仕事が進むわけがない。


幸いにして明日は土曜日。

ゆっくり休めばいい。


買ったばかりの水を手に持ち席へ戻る。


まだ、いくつかの席で仕事をしてるのを傍目に鞄を持つ。


いつからだろう?帰るときにお疲れ様でした、と声を出さなくなったのは。








電車から降りる。


家まで徒歩10分の立地である。


可もなく不可も無くな距離。


その道に座り込む女性がいた。


壁にもたれ掛かって、まだ少し肌寒いこの季節に、だ。


顔は、泣いたのだろう。化粧でぐちゃぐちゃになっていた。


触らぬ神に祟りなし、と。




普段なら、そうだった。


疲れてたんだろう


「そんなとこで寝たら風邪引くぞ」


へ?といった感じで目を開けた。


「まぁ、手をつけてないからこれでも飲んだら?」


そういってさっき買った水を渡す


「え、あ、ありがとうございます。」


そういって受けとる。


「彼氏にでも振られた?」


「そう、です」


と、今にも泣きそうな顔をし始める。


あれ?こんなにもろかったっけ?


「まぁ、そのなんだ。話聞こうか?」


つい、そう声をかけてしまった。


普段ならそんなことはしないのに、不思議と声をかけてしまった。


だが、コクンと頷かれてしまい、とても困る。


だからつい、


「どっかこのへんで、いい店知らない?」


と、言ったら笑われてしまった。







なんだ、もう笑えるじゃん。

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勝手な思い込み 微睡 @dosooh

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