公園が好きだったのか?
……しかし、この場所ということに、必然性があったのだろうか。
それも公園ごとまるごと、異質な世界にしてしまう場合に。
化たちが狙ってきたのは南美川さん、あるいは自意識過剰かもしれないけど、もしかしたら、僕かもしれない。もっと妥当だと考えられるのは、南美川さんも僕もどちらも目的ということだ。
僕と南美川さんはつねにいっしょにいる。南美川さんがいま人犬になってしまっているという以上、つねにだ。
つまり狙うタイミングは公園にいたときだけではない。
僕のアパートを狙ってもいいのだし、行き帰りの道、なんならケーキショップにいたときを狙ったって、よかったのだ。
……それが、たまたま、なんらかの事情で結果的に僕たちが第三公立公園にいたときになってしまったというなら、まだわかるのだけど。
しかし化の思考を想像してみるとすこし違和感があるのだ――彼はそこまで巨大なリスク、言い方を換えれば面倒を、わざわざ抱える
第三公立公園全体を巻き込んでしまえば必然、そこにいるひとびとや、公園施設がすべて巻き込まれる。けっして少ない人数でもなく、けっして小さな公園でもない。
僕たちふたりをどうこうするくらいだったら変な話、隠蔽もしやすいだろう。けれども第三公立公園全体を巻き込めばそう簡単な話にはならないはずだ。だいたいいま外部から見て第三公立公園はどうなっているんだ。帰ってこない家族を心配して外部の人間がしてきた連絡は? ……そのへんを、化たちは、なんらかどうにかのかたちで処理しているはずだ。
不自然なことを、無理やりに、辻褄を合わせてまるで自然であるかのように。
……けれどもそれは余計なコストではないかと思うのだ。
彼らの目的があくまで、南美川さんと、僕であるならば。
化はそういった無駄を好んでおこなうほうだったろうか――そうは、思えなかった。彼のやることなすことは、……たぶん彼なりになにかしら事情や理由があって、だから――僕は二回も、あの青年に囚われた。いちどめは椅子に拘束され、にどめは高校生の心に戻されて、……そしていま、さんどめが起こっている、起こってしまっている――最中なのだと。
第三公立公園である必然性はあったのだろうか。
「……シュン、おはよう」
「おはよう」
「やっと、目が覚めてきたの」
「寒いしね」
「……うん。寒い」
南美川さんが、まだすこしとろんとした眠気の残る目で、でもはっきりとした意思をもってして前足を伸ばしてきた。なにかはるか遠い空の光でも掴むかのように。だから僕はその肉球を小さく押した。その頭を丁寧に撫でた。
「ところで、南美川さん。つかぬことを訊きたいんだけど」
「なあに……?」
「あなたの弟と妹は、公園遊びが好きだったりしたのかな」
「……どうして?」
「この世界の秘密を解く鍵になるかもしれないんだ。……この事態は、あなたの弟と妹が起こしている」
「……わかっているわ。そんなことは……」
耳と尻尾が、すこし力を失った。
「でも、どうして、公園遊びなの」
「いや、……そのさ」
僕は後頭部に手を当ててすこし髪をくしゃりとやった。
「……ここは、公園だろう。それも公立公園のひとつ。この場所をあえてターゲットにしたってことは、もともとなにか、公園にこだわる理由でもあったのかと思って」
「そういうこと……。そうね、公園、公園……わたしは公園遊びが好きだったし、真もよくそれにはつきあってくれたけど、そうねえ、……化は、そうでもなかった気がするわ。でもね。……あの子は」
耳と尻尾が力を取り戻してくる。
おそらくは回りはじめた思考といっしょに、その目も明確で人間的な意思を取り戻してくる。
「化は公園遊びはしなかったけど、箱庭で、公園をつくるのは好きだった。あの子は小さなころ異常なほど箱庭遊びに熱中していたんだけどね、いくつかあの子なりのテーマがあるみたいで、お気に入りのテーマのひとつが、公園だったの。だからあの子はわたしと真といっしょに公園に来なかったけど、わたしと真に公園遊びのエピソードの話はせがんできた、なんどもなんども、……ちょっとだいじょうぶかしらと思うくらい、あの子は尋ねてきた……」
どこかどこでもない場所を、真剣じみた視線で見つめて。
つぶやくようにそう言って、南美川さんは、ぐるんと大きく円を描いて尻尾を一回転させた。
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