28話 闘魂注入完了!

 雲の切れ目から射し込む眩い春の陽を浴び、肌を粟立てて立つ逞しい自警団長は、ワザとらしいくらいに厳粛な顔であった。


 だが、その名に恥じぬよう、また伝説の巨乳様へ失礼のないよう、飽くまでも目線はマリーナの前方に飛び出た胸へと堂々と釘付けにさせたまま、縦横十メートル四方の神前組手大会の白い石舞台へ叫ぶ。


 「いやはや諸君!それではいよいよ、優勝者特別栄誉試合である、伝説の勇者様方との世紀の一戦をここに執り行う!!

 いやはや!先ずは、七十回目の今大会の優勝者!六年連続優勝のアン!ビス!中央へー!!」

 吹奏楽団の放つコードトーンとメジャーなスケールを一気に駆け上る、短いパッセージが高らかに鳴り響き、団長は震える手で舞台の真ん中を指し示す。


 それを皮切りに、待ちきれない観客等の口笛が空を裂き、ゴォオーッ!と地鳴りのような大声援がうねり轟き、石舞台と大気が震えた。


 応援用聖花の色とりどりの花びらと紙吹雪の舞うその中を、腰骨を中心にしゃなりしゃなりと中央へ歩く、極ミニスカートに、レモンパイケーキのデコレーションのような、純白のフリルブルマは大会六年連続覇者、アンとビス。


 やはりそのスレンダーな身体に沿うように、垂直に二メートルを越す樫材の棍を立てていた。

 

 顔が前に出た、美しい褐色と白い肌の灰色の光沢のある二つのメイド服姿は、観客へ手を振りながら目的地にて、四方の群衆へ順に犬耳の立った頭を垂れる。


 それに応ずるように、またもや地底からわき上がるような歓声が時計回りに湧き上がった。


 観客のご機嫌をうかがった二人の顔は、まだ取り澄ました、艶やかで滑らかな乙女の肌であった。



 怒涛の歓声が鎮まるのを辛抱強く待つ、銅鎧の紳士、ゴイス=ボインスキー。


 その司会進行役の喚声を待つのは、舞台の階段を上がった前で腕を組んで立っている、女戦士と女アサシン。

 二名は観る者等に震えを覚られまいと、必死に全身の筋肉を強ばらせていた。


 彼女等の立つ舞台を取り囲む観客は、ざっと見て、優に数万を越えているだろう。


 群衆は中心から外へ広がるにつれ、座るものが減り、運営の貸し出している木製の簡易座席の上に立ち始め、幼い子供等はそれに肩車をしてもらい、小さな手を叩く。

 更に離れると、近隣住宅の許可する壁に登る者や、売店の人気商品の脚立を使い、高見から見物する者など、自然にすり鉢型が形成されていた。


 祭りは七大女神の大会である。

 そこには一定のモラルと助け合い、そして譲り合いが見てとれた。



 中央の衆目の的である二人の伝説の勇者、マリーナとシャンは、勿論こんなに大勢の前に立ったことはない。


 二人の四つの耳は激しい声援の中でもドクドクと熱い脈打ちを伝え、吐き気と喉の乾き、寒気と足元の感覚がおぼつかない程の強烈な脱力感等が渾然一体となり、暴れる天竜の如くその体内を逆巻いていた。


 つまり、この上なく緊張していたのである。


 銅の兜の角を午後の陽に輝かせたボインスキーが叫ぶ。

 「いやはや!続いて、この星の人類全ての最後の希望!闇と魔を永遠に払う、七大女神の寵愛と加護を一身に注がれし家系!その類い稀なる光属性の伝説の勇者!!

 いやはや!シャン様!そしていやはや!いやはや!

 我等がぁー!マリーナ様ぁーー!!どうぞ中央へ!!」

 自警団長は脂ぎった顔を鎖骨辺りまで紅潮させ、力の限りに叫んだ。

 彼は内心、このまま死んでも良いとさえ思っていた。


 名をもって喚ばれた、深紫に染めたレザーアーマーの痩身165㎝は、革の黒いグローブで木製のトンファーを両手に握り、美しいトパーズの瞳を燃やし、音もなくただ前へ歩む。


 少し遅れて、紅いベストのような革鎧に同じ色、材質の籠手とロングブーツ。

 白い肌を陽に焼いた、ブロンドを高く結った巨大な峨峨たるバストを二基搭載の170㎝。

 百メートル先からでも「あっ美人!」と分かる女戦士は、武者震う右手に木製の長大な両手剣を握りしめ、サファイアの瞳でライカンスロープを睨み付けながら堂々と歩を進めた。



 いよいよ対峙する、四名二組の神前大会特別試合の戦士達。


 観客等は正に興奮の坩堝と化し、逆巻く津波の如く蠢き、前へ!もっと前へ!と押し寄せた。


 アンとビスは腕を組み、脇に棍を挟んで不敵な笑顔を見せていた。

 

 プラチナブロンドの妹が、おかっぱボブを慇懃に垂れると、取り澄ました顔で

 「勇者様方。そんなにご緊張なさっては、折角の伝説の光のお力も、ご存分には、」


 ガゴンッ!!


 揶揄をタップリと含んだアンの声が途切れた。


 目の前で突然、天を撃つような女アサシンの強烈なアッパーカットが女戦士の顎を真上に向かせたのだ。


 呆気にとられる美しい双子。


 褐色のビスがそれを指差し

 「シャ、シャン様……!?一体何を?なぜマリーナ様を、」


 ガツン!!


 今度は女戦士の強烈なアッパーが、女アサシンのマスクの顎をとらえた。


 口の脇から鮮血を一筋流すマリーナは、首の後ろをに手をやり、頭を振ってニヤリと笑い

 「シャン、あんがと」


 女アサシンは首を捻って鳴らし

 「マリーナ。やるぞ」


 うおぉーーーー!!!


 突然、伝説の勇者二人は、二匹の美しい獣のように天空へ遠く吠え上げた。

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