1回目の私と99回目の僕
密家圭
ふしんしゃ が あらわれた!
第1話 春は不審者に注意
春は不審者と冬眠明けの熊に注意。家を出ようとして、中学の担任が言っていたのを思い出す。中学校の近くではどちらも目撃情報がまばらにあった。でも、今から下見に行く誠凛高校近くは、そんな話は聞かないから大丈夫なはずだ。
それに、ただの漠然とした勘だけど、今日は何か良いことが起きそうな気がする。
まっすぐ進んで、4つ目の角を右。ちょっと細い坂道をのぼって、バターの香りを吸い込みながら、ベーカリーの交差点をまた右へ。
「うん、おっけー」
来週から通う誠凛高校まで辿り着き、自然と声が出た。線が数本しかない、母の手書きの地図は案外シンプルで良かったのかもしれない。
順調すぎて鼻歌を歌いそうになりながら踵を返すと、人にぶつかった。
「すみません!!」
ぶつけた鼻を押さえながら頭を軽く下げる。恥ずかしさに視線を地面に落としたままでいたけれど、相手の反応がない。
相当起こらせてしまったのかと怖々相手の様子を伺うために、ちらりと目線を上げた。
(うわ、すごく綺麗な人……!)
灰色の瞳に、キャラメル色の髪。鼻筋がすっきり通っていて、ぱっちりとした鳶色の目に、つやつや色白の、全女子が憧れるタマゴ肌。完璧に作り込まれたゲームのCG みたいに、ケチのつけどころのない美人さんだ。
でも、美人さん、びっくりした顔のまま、動かなくなっている。どうしよう。けっこう勢い良くぶつかったし、どこか変な打ち方をしてしまったのかもしれない。
「あの、大丈夫ですか!?どこか痛いところとか、」
「やっと見つけた!!」
「……はい?」
電池が入ったみたいに、突然動き出した美青年は、いきなり私の両手を自分のそれでぎゅっと包み込むように握ってきた。
「ああ、探していたよ、
言葉のとおり、最も愛おしい人を見るように、トロンとした緩やかな笑顔だ。
……どうしよ、本当に変なとこに打っちゃったのかな。病院に連れていってあげるべきか。
相手のノリに軽く引きながら、混乱する頭でどうするべきか考える。その間も目の前の変な人の口上は止まらなかった。
「その様子だと君は覚えていないようだけれど、君と僕はこれが99回目の人生さ。僕は98回目までの全部の人生で君に恋をしてね。それは今回もどうやら同じようだ」
「は、はい……?」
――いったいなんだ。なんなんだ。壮大な中2病か。この辺不審者出ないんじゃなかったのか。
「あ、あの、私、今急いでるんで失礼します!!」
「えっ。君っ、待って、」
今までで一番のスピードで走っていくと、テノールの澄んだ声はどんどん小さくなっていった。
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