怪獣トーク

やましん(テンパー)

  『怪獣トーク』

 あるひのこと、ぼくは高い土手を散歩していました。

 大きな川なので、向こう側の土手は、もう別の街です。

 とはいえ、この時間、人影もなく、町の雑踏もあまり感じられず、孤独なぼくには、好い加減な感じです。


 と、ふと気が付くと、この土手の道の向こう側に、何かが座っているではありませんか。


「怪獣だ!」


 そうなのです、そこには、怪しい大きな怪獣が座っていたのです。

 大きいと言っても、2メートルくらいでしょうか。

 テレビに出てくるような巨大さではありません。


 この先、進むべきかどうか?


 でも、ここは公道であり、誰が通っても良い道です。

 引き返す理由もありますまい。

 で、ぼくはその怪獣さんに向かって、どんどんと歩いて行きました。


 そうして、すぐ後ろまで来た時、怪獣さんが振り向いて、こう言いました。

「こんにちは。今日は良いお天気ですね。」

「はい。そうですね。」

「お散歩ですか?」

「はい。仕事ないし、することもないので。」

「そうですか、よかったら、座って行きませんか? いい気持ですよ、ここは。あ、ぼくは怪獣バラモ・モンガーです。」

「はあ・・・・・・」


 特に断る理由もなく、ぼくは怪獣さんの隣に座りました。


「いやあ、都会のオアシスと言うか、そんな感じですなあ。」

「はい。あなたは、お仕事ですか?」

「ええ、そうなんです。この下にスタジオがあって、そこでコマーシャル撮影してました。」

「そうなんですか。休憩時間ですか?」

「いえ、もう、おわりました。」

「は? その格好のままで?」

「はいー。ぼくはいつもこの格好だからね。」

「はあ?」

「これがぼくの、正規スタイルだから。」

「ああ・・・ははは。このお仕事は、長いのですか?」

 可笑しな質問だとは思いました。


「ええ、もう300年です。銀河系全般が守備範囲です。でも、このごろ怪獣は流行らないんです。」

「そうなんですか?」

「はい。都市を破壊するばかりで、教育上よくない、とか、社会的に矛盾している、とか、まあ、財政問題が一番多いのですがね。それに、やはり流行りというんでしょうか、ぼくは、かなり古典怪獣なので、もう時代遅れなんですよ。このごろは、もっと、あなたくらいの大きさの、超人さんや、スーパーヒーローが人気で、怪獣は落ち目ですからね。仕事が、少なくてね。ちょっと困ってるんです。移動エネルギーの補給が、どうも追い付かなくてね。」


「はあ・・・ぼくが子供の頃は、全盛期でしたが。」

「そうそう、あの頃は良かったなあ。ぼくも、あっちこっちから声がかかってました。太陽系からは、ほとんどなかったですが、まあ、この国くらいでしたが、あの『バズーカ星』では、もういつも主役と競ってました。『幻術タロー』というヒーローの敵役だったんです。ご存じないですか?」

「いやあ・・・ちょっと・・」

「ああ、そうか、地球ではやってなかったですかねえ。他にも、惑星『アーべー』では、『怪獣捜査官』として、準主役だったんですよ。そりゃあもう、子供たちに大人気でした。」


「はあ・・・それは、すごい。どこにある国ですか? 南アメリカ?とか」

「いえいえ、まあ、ケンタウリのお隣、あたりですよ。そう遠くじゃないです。」

「はあ・・・聞いたことない国ですが。」

「そうですね、比較的マイナーな星だからな。でもね、この星の怪獣さんたちは、ほんと親切だから良いです。」


 ぼちぼち日が傾いて来る時間でした。

 小さな汽船が、ぽーっと言いました。


「このあとも、お仕事ですか?」

 ぼくが尋ねました。

「ええ、まあ、『ボーダー星』のスーパーで、子供たちとの撮影会があります。そろそろいかなくちゃね。」

「大変ですなあ、でも、きちんとお仕事をしているのは、りっぱです。」

「いや、どうも。あなたは?」

「辞めました。色々あってね。」

「そうですか。ぼくの仲間にも、廃業したのが沢山いますよ。でも、それだって悪くないですよ。怪獣人生様々です。なにが良いか悪いかなんて、簡単には決まらないです。あなたが、結局最後に『ああ、楽しかったなあ』と言ったら、怪獣人生成功なんですよ。どんなに出世したって、後から悔やまれるばかりだったら、楽しくなんかないですから。さてと、行きますか。いやあ、楽しかったなあ。まあ、ぼちぼち、お散歩頑張ってください。あなたも、良い怪獣人生を!」


「ありがとう・・・、あなたも。バラモ・モンガーさん。」

「じゃね!」


 そう言うと、その怪獣は、土手から空に舞い上がり、本当に、宇宙の彼方に去って行きました。


 ぼくは、お散歩を続けました。



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