65~交わり、集う~・2

『……なるほど、だいたいの話はわかった』


 女神の話を聞き終えたランシッドは、腕組みをしたあとこう続けた。


『それに、彼女がここにいる……テラと切り離されたというのは、我々にとってもいいこと尽くめだ』

「テラは女神様のチカラを使って時空干渉をしているから……ということかい?」


 シーフォンが尋ねると、返ってきたのは頷きで。


『まだ多少はそういう力が残っているかもしれないが……少なくとも、大規模な時空干渉はひとまず食い止められたと考えていい』


 つまり、アラカルティア最大の危機であった世界規模の干渉は中断されているだろうと時精霊は語る。


「ひとまず、って言い方が引っ掛かるわね」

『恐らくテラは私が切り離されたことに気づいたでしょう。もしあなた方が敗れるようなことがあれば、私は再びテラに取り込まれ、そして世界は……』

「水際の戦いには変わりない、か。だがこちらには今更なことだ」


 ‎クローテが冷静に言い放つ。

 これまでどれだけそんな状況で戦い抜いてきたのだ、と。


「遠くから高みの見物をしていたテラをここまで引きずりおろして追い詰められた。上出来すぎるだろう」

「で、ござるな」


 日頃は冷静で物静かな青藍の瞳に好戦的な光が宿る。

 とてもじゃないが手が届かなかった、恐怖の象徴……特に一度はそれを体に刻み込まれたクローテとガレの言葉には実感がこめられていた。


『強い……ですね』

『強くなったんだよ、ウチの子たちは』


 にやり、とランシッドが笑う。

 それは勝機を見据えた切れ者の王の横顔で。


……と、一瞬の間があってランシッドは『ああそうだ』と隣の女神に切り出した。


『ひとつ聞いておきたいんだけど……テラは、俺たちの世界に落ちてきた“総てに餓えし者”と』

『ええ。アラカルティアの歴史を見ると、恐らく同質のモノではないかと……こちらの世界でテラが落ちてきた時代と、ほぼ同時期ですし』

『……やっぱり。そうなると納得できる部分が多い』


 障気の中を平気で歩いていたり、ヒトの恐怖や絶望を食い物のようにしていたり、災厄の眷属を従わせていたり……デューたちが二十年前の旅で倒した“総てに餓えし者”とテラは、偶然と言うにはあまりにも共通項があり過ぎた。


『アラカルティアと他の世界は、同じ空で繋がっています。こちらから見ることができたとしても、互いに夜空に瞬く星の中のひとつに過ぎませんが』

『そして空を漂う星がふたつに分かれて、そちらの世界とこちらの世界にそれぞれ落ちた……ということなのか?』


 それぞれの世界で時空を司るものたちが向き合い、考え込む。


 だが、


「知ったことかよ」


 沈黙を破ったのは、カカオのひと声。


「テラの正体が何だろうと、いくつもの世界を滅ぼし、アラカルティアに侵略してきた敵に違いねえだろ。必要な情報は、どうやったら倒せるか……それだけだ」


 はじまりがどんなものであっても、もはやここに来るまでに罪を重ね過ぎた。

 あの手が壊してきたもの……消された世界の人々は、カカオたちと同じように当たり前に生きていくはずの日々を突然、遊び感覚で全て奪われてしまったのだ。


 だから……


「終わらせなきゃいけねーんだ……今度こそ、オレたちの手で」


 決意を秘めた眼差しは、真っ直ぐにテラの居城……テラの本体そのものだと告げられた建造物へと向けられた。

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