64~剣と鞘と~・2

 しばらく進むと、ランシッドの言葉どおり城のような、やはりいびつな形をした建造物が聳え立っていた。


「こんなにデカくても案外遠くから見えないもんだな」

「真っ黒だから……かしら?」


 アラカルティアからのゲートの位置も確認し、ひとまずは帰路の確保に時精霊がほっと息を吐く。


「みんなは……」

『近くにはいなかったけど、きっとここを目指して来るはずさ』

「それならオレたちがここにいるってわかりやすくしようぜ。メリーゼ、光の魔術使えたよな?」


 カカオの意図に気づいたメリーゼは、なるほどと頷いて目を閉じた。


「お願い。わたし達の道を……みんなの道をここに繋げて!」


 メリーゼの両手から生まれた小さな光が高く昇り、花火のようにパッと散る。

 彼女が唱えたのは攻撃や治癒の術ではなく、光を発するだけの、魔術とも呼べないささやかなものだ。

 ほんの瞬く間の光だが、薄暗く何もないこの場所ならばきっと仲間に届くだろう。


「これで目印になるかしら……?」

「あっ、ほら!」


 ややあって、別々の場所から同様に光や火の玉、雷光が上空へと放たれた。


「光はたぶんアングレーズだな。あっちの火は……シーフォンかモカ? 雷はガレかパンキッドあたりか」


 魔術を扱う者もそうでない者も、ヒトには属性の適性というものが存在する。

 本人の気質や精霊との相性により、得意な属性もあれば、逆に全く扱えない属性もあるのだ。

 カカオたちは仲間の得意属性を思い浮かべながら、打ち上げられた合図を見上げた。


 これならば、そう遠くないうちに合流できるかもしれない……そう思い胸を撫で下ろしたその時。


「あっ!」

『どうかしたかい?』

「……呼んでる……さっきより強く……」


 瞬間、メリーゼの足元からブワッと光が発せられた。


「!」

「メリーゼっ!」


 彼女が立つ場所をぐるりと囲むようにして描かれた光の陣……それが意味するものを考えるよりも早く、カカオの足は駆け出していた。


《それでいい。来なさい、二人とも……》


 突然響いた女性の声。

 メリーゼを救出しようとしたカカオも巻き込まれて、光の中へと消えていく。


『メリーゼ! カカオっ!』


 唯一残されたランシッドは手遅れと知りつつふたりが消えた方へと手をのばすが、


《……少しの間だけ彼らを借ります》

『お前は一体……!?』

《仲間の合流までには帰します。悪いようにはしません……アラカルティアの“時空を司る者”よ》


 これまでに聞いたテラのものとよく似た質で、けれども全く違う音色を奏でる女性の声。


 声の正体に思い至ったランシッドは、バカな、と呟いた。

 何故ならその人物は、生きてここにいるとは思えないから。


『ふたりを連れ去った奴はひょっとして……もしそうだとしたら、ふたりに何をさせるつもりなんだ……?』


 ランシッドの疑問に、答えは返ってこなかった。

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