60~終わりへのスタートライン~・1

 カカオ達が現代に戻ってくると、清浄な王都の空気が息苦しさから解放してくれた。


「時空干渉とやらの影響は消えたようだな」


 メリーゼの生家であるフェンデ邸、その主でメリーゼの母でもあるダクワーズがベッドで上体を起こし、帰還した我が子とその仲間を迎える。


 もうひとつの干渉の影響である足の怪我はそのままのようだが、母娘ともにそこにしっかりと“在る”のがわかる。


(良かった……ちゃんといる)


 戦いに赴くため、時精霊の力を借りて存在を定着させていたメリーゼも、なんとなくだが今はそれが必要ない状態だと感じられた。

 その事に内心でこっそり胸を撫で下ろしたのは、カカオだった。

 不安に消え入りそうな彼女を、揺らぐ存在を、強がりの裏に隠れていた涙を……そして、思ったよりか細い体に気づいてしまったから。


「これでようやくスタートラインに立てた、ということかい?」


 シーフォンがランシッドに尋ねる。

 テラを倒したと言っても、これまでこの世界で活動していたのは分身に過ぎない。


『……そうだね。分身を倒したことで、ようやく本体を引きずり出せるところに来たんだと思う』

「ここからテラがどう出るつもりか、全く想像がつきませんねえ」


 腕組みをしてうんうんと頷くブオル。

 テラに消された異世界の者たちが辿り着けなかった領域……その外に何が待ち受けているのかは誰にもわからない。


『本体とやらが直接こちらに乗り込むのか、それとも……』


 口許に手を置いて、ランシッドがうーんと唸る。


 その時だった。


「!?」


 脱力感と浮遊感……一瞬だがこの場にいた全員が、世界が、霞んだような気がした。

 それは、ともすればほんの立ち眩みや気の所為だと思うかもしれない瞬く間の出来事だったが……


「い、今のは?」

「時空干渉……だな」


 カカオ達の中には覚えのある者もいる上、ダクワーズやメリーゼにとってはつい先刻まで苛まれていた感覚だ。

 けれどもその範囲が明らかに今までのようなピンポイントではなく……少なくとも今回の干渉は阻止できたはずで、それはランシッドにもよくわかっていた。


 それならばこれは何なのか。


『世界規模の時空干渉……それこそ、この世界の誕生に干渉しているとしたら……?』

「!」


 時精霊の発言に全員が息を呑む。


「そんなことが……」

『たぶんテラなら可能だよ。ただ、そう簡単にはいかないと思うけど……遠い過去、時代が離れるほど、多くの力を必要とするはずだから』


 ましてや世界の誕生とまでいけば、すぐにとはいかないだろうとランシッドは語る。


「で、でも、それってボク達が追いかけることできるの!?」

「確かに、ランシッド様の時代に行くのにも準備が必要だったからなあ」

「っていうか、仮に転移できたとしてオレ達が活動できる環境なのか?」


 想像もつかない状況に問題は山積みで、うーん、と唸る声がハモった。

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