59~その拳、届く時~・3

「あのテラが簡単に……どういうことだい?」

「あー……もしかして、そゆコト?」


 ガレが一瞬でテラの分身を倒した光景に、一拍置いて合点がいったらしいモカが頬を指先で掻きながらパンキッドに説明し始める。


「たぶんだけどねパン姐ぇ、今まで戦ってきたテラ……今目の前にいるのって分身じゃん? それって本体以上の能力にはならないっぽいんだよね。まあ分身なんだから当たり前だケドさ」


 残った二体もカカオ達と刃を交えているが、あの一方的に蹂躙するほどの力は感じられないどころか、対等な戦いを繰り広げているように見える。


「高度な意思を持って動くものなのか、意のままに操っているかまではわからない……だが、そんな分身がノーリスクで生み出せるとは思えんな。できるなら三体と言わず、無数に作り出すのが手っ取り早い」

「最初の分身が本体の力の半分を使って生み出していると仮定して、それがまた分身を生み出して半分、そのまた半分……ここまであからさまじゃなくても、分身を作る度に弱くなっているとしたら?」


 分身とはいえ、かつては英雄であるデューすらも圧倒したはずのテラが……クローテやモカの言葉に裏付けられながら、戦況は変わっていく。


「本体は安全なところから、という保健を残しながらゲームを楽しむ駒として異世界で分身を遊ばせる……今まではそれで充分だったんだよね」

「そして恐らくかつての我々なら、この分身の分身に手数で攻められたら勝てなかったかもしれない」


 分身の一体がふいに姿を消し、瞬間移動で攻撃を仕掛けるもメリーゼが先読みしてそれを防ぐ。

 厄介な動きに対応できるほど、長い旅の中で、彼らはしっかりと経験と成長を重ねてきた。


「パンキッド……キミだって、分身が増えてもあんまり怖くなかっただろう? 頭じゃあわからなくても、本能が理解していたのさ」

「うぐっ……シーフォン! アンタ、一言多いんだよ!」


 理屈はさておき、真っ先に理解したのがブオルだったのは、その肌に重ねた戦闘経験の差だったのだろう。

 そして前衛の方が僅かに早くそれを感じ取ったのも、より近くで敵と向き合い、相手の気に触れるがゆえ……分かれたことで薄まったことに気づけた。


「うるさい、うるさいッ! 雑魚どもがッ……」

「まだオレ達を雑魚と呼ぶのかよ」

「その驕りが貴方の敗因です、テラ!」


 既にもう一体の分身もなく、残るは最初にいたテラ一人。

 カカオとメリーゼが進み出て、同時に強く踏み込む。


「人をっ……この世界を、なめんなぁぁぁぁっ!」

「ッ!」


 軽やかに跳んで撹乱するメリーゼと、直線的に突っ込むカカオ。


 彼らの一撃が、ようやく、テラに届いたのだった。

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