46~想い出の地の奥で~・1

「で、ついて来るのはいいけどさ……シフォ兄ぃはどうやって戦うの? その宝剣振り回すつもり?」


 聖依獣の隠れ里を目指す森の中、新たに仲間に加わったシーフォン王子。

 危険な旅に同行するのだから、その実力は知っておきたい……最初に切り出したのは、彼のいとこであり聞きにくいことにも割と踏み込んでいくタイプのモカだった。


「まさか。これは契約者の父上が傍にいない精霊王のための器であり本来は城の宝物庫に保管されなくてはいけないものでもある。そうそう振り回しなんかしないよ」

「思いっきり斬りつけられたでござるが……」

「精霊王の力を使うためさ」


 傷跡などない首をさすりながら、ガレが苦笑いをする。

 仕方のないことだったとはいえ、いきなり斬りかかられてさぞかしびっくりしただろうな、と周囲もひっそり同情した。


「そういえばシー君、宝剣の他に剣を持っていないようですけど……」


 シーフォンは騎士団の人間でもあり、細剣を使っていたのをメリーゼは思い出す。

 けれども彼の腰に剣はなく、代わりにあるのはベルトについた小さなバッグ。


「ああ。もう剣はやめたんだ」

「えっ?」


 と、そう言いながら腰に手をかけ……


「おしゃべりはそこまでた! 魔物だぞ!」


 クローテがそう言うと同時に王子は飛び出してきた魔物に狙いをつける。

 バッグから取り出したのは、途中から二股に分かれた棒の二つの先端にゴム紐を張った武器。

 ゴム紐を引っ張って石を飛ばす、スリングショット……いわゆるパチンコだ。


「くらえっ!」


 シーフォンは素早く小石を飛ばし、魔物の頭部に数発、見事命中させる。

 僅かに光を纏った石はマナがこめられていたのだろうか、見た目以上のダメージを与えた。


「……優れた騎士である父上とは違って、僕は剣も魔術も正直微妙だった。できなくはないが、メリーゼやクローテのように何かに秀でたものではなかった」


 言いながらシーフォンは、これで仕上げと言わんばかりに高らかに指を鳴らす。


 瞬間。


 ドォン、と小爆発が起こり、堪らず魔物が倒れる。


「それでも僕は剣をとり、騎士であろうとした……他に在り方を知らなかったからね。でも、それは間違いだった」


 シーフォンは獲物を仕留めた武器に小さく口づけを落とすと、


「自分なりの強さを求めた結果、辿り着いたのがこれさ。昔から城の者をからかうのに使っていた相棒でね……イタズラと脱走と、こいつの扱いなら任せてくれ」

「あ、こりゃ間違いなくモラセス様の血筋だわ……」


 呆気にとられる仲間たちに、にっこりと微笑みかけるのだった。

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