46~想い出の地の奥で~・2

「ここ、か……」


 森の奥の花畑。

 カカオ達には一度時空干渉で訪れた場所であり、ブオルにとっては二度の苦い記憶が蘇る場所でもあった。


「聖霊の森の花畑……父上に聞いたことがあるぞ、ここは……」

「ああ。モラセス様の想い出の場所だ」


 一度目は若き日の主の淡い恋の始まりと悲しき別離を、二度目は時空干渉により知り得なかった時代の変わり果てた主の姿を、この花畑で目撃したのである。


「やたらと縁があるんだな、ここには」

「ブオルさん……」

「大丈夫だ、メリーゼ。行こう」


 心配そうに見上げるメリーゼの頭をぽんぽんと撫でてやったブオルは、しかし周囲を見回して、


「……って、ここで行き止まりだよな? 昔来たことあるけど、この森は他に何もないし……」


 花畑にはひっそりと佇む古びた石碑があるだけだ。

 注意深く観察しても、その周囲に何かある訳ではない。


「ブオルどのぉー……聖依獣の“隠れ里”でござるよ?」

「そう簡単には見つからない訳か」


 ガレは頷くと石碑に触れ、目を閉じる。

 すると重たいそれはひとりでにゆっくりと動き、下に通じる階段が現れた。


「ここは聖依獣や、聖依獣と縁深き者にしか開けないのでござる」

「例えば?」

「聖依獣の血が流れる者、聖依獣が伴侶に選んだ相手や、聖依獣の力を引き出す聖依術士とかでござるな。ちちうえの話だと、ミレニアどのがそうでござる」


 耳慣れない単語に仲間達は首を傾げる。


「聖依獣には精霊やマナをその身に宿す“器”の性質がある……と聞いた気がするな」


 ガレのブレスもその能力の応用だが、聖依術はまた違うものなのかとクローテが考え込む。


「左様。そこからもう一歩力を引き出し、聖依獣の姿や能力ごと変質させる術があるのでござるよ、クローテどの」

『ミレニアはその術でシュクルという聖依獣に精霊を宿していた。ちっちゃいウサギみたいな子だったけど、途端に炎や風を纏った強そうな姿になるんだ』


 実際強くなるんだけどね、とランシッドが付け加えて。

 しかしいつまでも立ち話をしている訳にもいかず、先に進もうと促した。


 森の地下には古い遺跡が存在していて、薄暗い中を等間隔に置かれた蛍煌石の灯りが照らしている。


「これ、最近も誰かが来たんじゃない? 長年封印されてるって感じじゃなさそう」

『二十年前までは聖依獣は地上にほとんど姿を現しませんでしたが、今は地上と関わりを持つ者も増えましたからね』


 現にシブースト村にも、と風精霊は言う。

 村で出会ったシナモンという女性が連れていた子供達には、獣の耳と尻尾が生えていた。


「そっかあ……」

「それにしても花畑の石碑に隠された遺跡なんて、ちょっとロマンチックね。物語に出てきそう」


 ぼんやりとした壁の灯りを見上げながら、アングレーズは目を細めた。

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