35~羽を休めて~・1

 オグマの時空干渉、そしてひっそりとあったもうひとつの時間旅行がそれぞれ終わり、ネージュの宿の一室には元の穏やかさが戻った。


『え、ブオルも時空転移してたの? また俺の知らないとこで!?』

「はあ……なんか、どうもそういうのに巻き込まれやすい体質なのかもしれませんね、俺」


 指先で頬を掻きながら説明するブオルに驚く時空の精霊。

 その後ろで、だから手紙の話が出たのかと仲間たちが納得していた。


『そんな体質聞いたことないけど……余計なことはしてないよね?』

「し、してない……と思います……たぶん」


 ランシッドとブオルがそんなやりとりをする一方、オグマとグラッセ、カカオ達もまた過去での出来事を話していた。


「……そうか、リィム殿と接触したのか」

「俺はあの時代にいない存在だから、誰に顔を見られても問題はない」


 自らを皮肉るグラッセに眉をひそめるオグマだったが、


「思いっきり抱き締めても?」

「そう、抱き締め……え?」


 横から挟まれたにやけ顔のモカの言葉に固まり、ゆっくりと、もう一度グラッセに視線を戻す。


「……グラッセ、その……」

「ちっ、違うぞ! いや違わないが……ええい外野は黙っていろ!」

「ひとが戦ってる時にちゃっかり彼女とふたりきりになって抱き寄せて「すまない」なんてシリアスやってたってランシッドのおじちゃん言ってたよー」


 そう言われた途端、時精霊を物凄い形相で睨むグラッセ。

 オグマにとってリィムは騎士団の先輩であり、伝えることなく終わった淡い初恋の女性だったが、グラッセにとっては……


「すまない、か」

「過去は変えられんし、なんの償いにもならない。無意味な行動だとは承知している。笑いたくば笑え」

「……いや。お前らしいな」


 過去世界での行動をいじられてからかわれていたはずのグラッセが表情を曇らせ、俯く。

 オグマも困ったように微笑むと、カカオ達が不思議そうな顔をした。


「そういえばグラッセのおっさん、時々よくわかんねーこと言うよな。償いだとか、自分はあの時代にはいないとか……」

「おっさんはやめろと言うに……そうだな。それは俺が、」

『さて、情報整理も終わって一段落した。次の話に移ろうか』


 カカオの言葉にこたえようとしたグラッセを遮って、ランシッドがふわりと半透明の体ごと会話に割り込む。


『マンジュはきっと独自に情報を集めているだろうし、何かあれば霊峰の件みたいにこちらに接触してくるはずだ。俺達は一度、トランシュへの報告も兼ねて王都に戻ろうと思う』

「王都の状況も気になりますしね」

「あのキラキラ王子様のこともな」


 メリーゼとカカオがそう続けると、特徴的なワードに「キラキラ王子様ぁ?」とパンキッドが首を傾げた。

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