20~消された村~・3

――騎士達が村に着いた時には、見るも無惨な有り様だった。


 異形の群れに襲われたそこは、ろくに太刀打ちできる者もいなかったのだろう。

 逃げ惑い、泣き叫び、挙げ句の果てに奪われて……横たわる村人は冷たくなってもはや声すらあげられないのに、最期の表情が声以上に物語っていた。


 せっかく、対抗する力を得ることができたのに。


 この手で守ることができると思ったのに……間に合わなかった。


 突きつけられた現実に騎士は言葉もなく、けれども視線をそらすことは出来ず。


 騎士はぐっと歯を食い縛り、背後に迫る気配に剣の柄を握る手に力を入れた。


 非情な現実に心折れ、膝をついている場合じゃない。


 もうこれ以上、犠牲を増やさないために……――



 カレンズ村から少し離れた、街道近くの荒れ地。

 二十年前のそこに辿り着いてほどなくしてメリーゼがあっと声をあげると、仲間達の視線が集まった。


『メリーゼ、また視えたのかい?』

「……はい、お父様。滅ぼされた村と、間に合わなかった騎士……フレス隊長の率いる隊が」


 これから起きるかもしれない凄惨な光景が脳裏に焼きついたメリーゼの表情は険しい。


「つまり今回は騎士団が魔物の襲撃に間に合わないように妨害したってことか……?」

「直接誰かを消す、っていう今までのパターンと違うね。悪趣味には違いないけどさ」


 人々を守るため王都からはるばる東大陸まで希望の腕輪を託されてやって来た騎士達が見たものが村の全滅なんて、あまりにも残酷で絶望的だと言えるだろう。

 単純に騎士団や腕輪をもつフレスを葬るのではなく、救える手段がありながら手が届かなかったために救えなかったものをわざわざ彼らに見せつけるあたり、相手の趣味の悪さがうかがえる。


「とにかく、今ならまだ間に合うんだろ?」

『時空の綻びに合わせて転移したから、異変が起きるのはこの近辺のはずだよ』


 ランシッドがそう言うと、丁度向こうからこちらに複数の人影がぼんやりと見えた。

 どうやらフレス達のようだがまだ異変らしきものは見当たらない……などと思った、その瞬間。


「何かしら、あの人形みたいなの」


 遠目にも明らかにヒトとは違う形をした平たく長い影が騎士団に迫るのが見え、アングレーズが呟く。

 姿かたちは多少変わっているが、彼女以外にとっては図形を組み合わせた無機質なそれは覚えがあるものだった。

 やがてそれと対峙した騎士団の足が止まり、ものものしい雰囲気が漂い始める。


「あれはカクカク野郎……まずい、もう接触してんぞ!」

「カクカク野郎?」


 アングレーズが耳慣れない言葉の意味を聞く前に、他のメンバーはその“カクカク野郎”目掛けて走り出す。


「あっ、ちょっとみんな!?」

「ボク達は時空干渉の度に何度かああいう変な形の化け物と接触してる。十中八九、あいつが犯人だよ、アン!」


 モカが手短に説明するとアングレーズも状況を飲み込み、彼女と並んで駆けだした。


……が、


「えっほ、えっほ……うー、今度は背負って走るための改良が必要かなぁ……」

「やっぱり重そうよね、その箱……」

「いやぁ、これでも多少軽くしてあるんだけどさ……」


 モカ自慢の“びっくりどっきりボックス”には武器や仕掛けが詰まっており、見た目の大きさからして重そうだ。


 先を行く仲間達との差が開いていくのを感じながら、モカは溜め息をついた。

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