15~乱入者~・3

 過去からの魔物の襲撃に混乱するパスティヤージュにふらりと現れ、魔物を浄化した二人の若者。

 こちらに歩いてくる二人のうち、淡い金髪の美女にフィノ達親子の目が集まっていた。


「ねえ、あなたはひょっとして……」


 フィノの娘、アンが進み出て美女を見上げる。

 すると少女の口許にトン、と長い人差し指があてられた。


「そう、あたしを呼んだのはあなた。けどここから先の話に今の“あなた”がいてはダメよ。何も知らないでいて頂戴」


 彼女の言葉を受けたアンはきょとんとしていたが、やがてきゅっと唇を結び、


「……わかったわ。モカちゃんをお願いね」


 うなずいて、くるりと踵を返す。


「えっ、アン行っちゃうの?」

「月白の祭壇で大人のだいじなお話があるんでしょ。もう暗くなっちゃうし、先にお家に帰って待ってるわ」


 寂しがるモカに一度だけ振り向いたアンは同じく寂しそうだったが、同時に悔しげにも見えた。

 ワッフルは娘の後ろ姿を見送ると、視線を二人に戻す。


『大人のだいじなお話、ね……気付いてたみたいね、アンちゃんも』

「みんなを避難させて、さっきの戦闘を目撃されなかったのは幸いだったかもな」

「ええ。あなた達……たぶん、少なくともそちらの方はわたし達のよく知るひと、ですね?」


 ねぇ、アングレーズ。


 フィノは淡い金髪の女性に、愛娘のものであるはずの名前で呼び掛けた。


「えっ、えっ、アン!? だって、アンはあっちに……」

「……読めてきたぞ。過去からこの時代に俺が迷い込んだように、二人は未来から来たんだ」


 言われてみれば顔立ちの雰囲気など共通する部分はあるものの、先程の少女と抜群のボディラインの美女のイメージが一致しないモカとカカオは少女が去った方とアングレーズを交互に見ていたが、ブオルは己の経験を顧みて先に答えに行き着いた。


「そう。あたしはアングレーズ・シャンティ。さっきの女の子……そして、あなた達の娘の未来の姿」

「やっぱりか。だから、ゴーレムを操ったり出来た訳だな……」


 土人形を造り出し従える能力は稀有なもので、自分以外にその力をもつ者を見たことがなかったワッフルは立て続けに起きた事件に理解が追い付かない苛立ちか、やや乱暴な動作で頭を掻いた。


「んじゃ、そっちのもう一人はもしかして……!?」


 カカオがおそるおそる指を差すと黒髪猫耳の青年は、嬉しそうに顔を輝かせ、


「ガレでござるよ、カカオどの!」

「う、うっそだろぉ……」


 今ではすっかり身長差も逆転し、少年っぽさもなくなった外見で、少年のように笑って見せた。


「ガレがあんなちびっこからこんなでっかくなって、アンが……背も伸びたけど、めっちゃばいんばいん……」

「うふふ、時の流れってすごいでしょ?」


 それなりの月日を経た時代の人間だから当然ではあるのだが、すっかり追い抜かされたショックでモカは呆然としながら成長した友人を見つめていた。

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