15~乱入者~・2

「おいアンタら! そんなとこにいたら危ねーぞ!」


 里の入り口に現れた男女はカカオが言うより早く魔物に囲まれ、孤立する形になる。

 すると黒髪の青年は黒く不気味な化け物に思わず後ずさった。


「うぇぇ、きしょくわるいでござるな……」

「……ござる?」


 その特徴的な語尾を使う者を、カカオ達は二人ほど知っている。

 二十年前の英雄にしてマンジュの連絡役、聖依獣のカッセとその息子のガレ。

 長身でがっしりした体格の青年は確かにガレと同じ髪色と目、そして猫耳尻尾にマンジュの装束らしき独特の衣装からは黒猫の手足を覗かせているが……


(あの耳と尻尾にあの手足、ガレの親戚か何かか? いや、それにしても……)


 内心でクローテが疑問を呟いた。

 つい先日、モカと変わらないくらいの年頃と背丈の少年と会ったばかりの一行は、同一人物と呼ぶにはあまりにも違い過ぎる年齢体格、そして他人と呼ぶにはあまりにも多い共通点に目を見張る。


 いや、彼らが何者なのかはひとまず置いて助けなくては。


「とにかく避難してくれ! ここはオレ達がっ……」


 カカオは戦鎚の柄を握り締めて駆け出そうとするが、


「心配無用でござるよ、カカオどの!」

「へ?」


 青年なニッと笑うとその背に携えていた己の背丈ほどのブーメランを取り出し、力一杯投げた。


「うぉぉぉぉぉっ!」


 キラリ、どこかで見たような金色の腕輪が光る。

 仄かな輝きを帯びたブーメランは二人を中心に円を描くように舞い、黒い魔物を次々と切り裂いていく。


「あの腕輪はじいちゃんの……!」

「今でござる!」


 青年が戻ってきたブーメランをキャッチすると同時に、シャン、と鈴の音が響く。

 女性の両手には一本ずつ、フィノの神子姫の杖を短く取り回しやすいバトンにしたような武器が握られており、それを彼女はくるくると回転させ、華麗に踊り始める。


 シャン、シャン、シャンと鈴が鳴るたびに、彼女の足元の地面が形を変えながら盛り上がっていき、


「これは……ゴーレム、だと……!?」


 ワッフルが造り出したものより一回りほど小さいが、それでも頑強な見た目をした土人形が主人を肩に座らせ、辺りの敵を見定めた。


「すっご……」


見下ろす土人形と美女の威圧は凄まじく、その迫力にカカオ達が愕然とする。


「……あたしの大切なものに手を出すなら、覚悟はいいかしら?」


 彼女は笑顔こそ浮かべているが、群がる歪な異形達に一瞬背筋が凍るような目を向けた。

 魔物はそれでも怯まずに獲物目掛けて襲い掛かってくるものの、土人形の腕によって払われ、弾き飛ばされる。


「汚い手で触らないで」


 そうして吹っ飛んだ魔物もまた消えていくのを見て、彼女も浄化の力を持っているのだと判明する。


「清らかに研ぎ澄まされし我が刃、降り注ぎて怨敵を……」


 土人形に守られた美女の唇が、精霊への呼び掛けの言霊を紡ぐ。

 危険を察知した魔物達が阻止しようと飛び掛かるが、


「貫きなさい!」


 直後放たれた無数の細い光によって残りも跡形もなく消え去った。


 全て片付け終えると彼女のゴーレムは沈んでいき、それによって肩に乗っていた主人もゆっくりと地に降り立つことになる。


 その姿は、まるで天から降りてきた女神のようであり、


「……助けに来たわ、モカちゃん」

「えっ……?」


 そんな女神はモカに向かって、極上の微笑みでそう言った。

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