11~風雅の里の珍客~・1

 日の光届かぬ地下に頼りない灯りが続く長い通路。

 世界中の人々の足元に根を延ばしているこの地下通路……“九頭竜の路”は、けれどもその存在を知る者は世界中でも一握りである。


「すっげぇなー……こんなもんがずっとあって知られてねえんだもんなあ」

『各地の出入り口は結界で隠されているんだ。マンジュの民が住まう小さな島を行き来する、数少ない手段だよ。何せあそこは定期船も通らないから』


 秘密の通路だから、許可なく通っちゃダメだけどね。

 メリーゼの肩の上で、もふもふの小動物に変身したランシッドがカカオにそう説明した。


「パパとママに聞いたことあるけど、この道は海の底を通ってるんでしょ? もし崩れたらボク達、人知れずぺっちゃんこだよねぇ……」

「こ、怖いこと言うなよ……」


 後半は怪談でも語るように低く声を震わせるモカにブオルが笑顔をひきつらせる。


「けど、かなりの距離を歩くことになるのでは……?」

『実際は途中に転移陣が置かれていて短縮できるようになっているからだいぶ近いし、もっと言うなら各出入り口に直接飛べる転移陣もあるよ。そっちは起動方法が特殊なんだけどね』


 ランシッドの言葉に「それなら最初からそれで行こうよ!」とモカ。

 いつ時空干渉が起きるかわからない状況ではもちろんランシッドもそうしたかったのだが、それが可能なら今こうして歩いてはいない。


『その直行転移陣を起動させる仕掛け、説明する前に誰かさんが面白半分で弄って一時的にロックかかっちゃったんだよねー?』

「……た、探究心と知的好奇心あってのアレっていうか、失敗は成功の母っていうか……」


 小さな毛玉から刺さる視線と言葉を受け、誰かさん呼ばわりされた少女は目をそらす。

 彼女が適当に触った仕掛けは、短時間で三回連続解除に失敗するとしばらく使えなくなるらしいが、不幸にもランシッドがそのことを伝えるより好奇心に駆られたモカの手の方が早かったのだ。


『お陰で次に使えるのは明日になってからだよ。まあ、ここの通路使っても明日には着くだろうけどね……』

「まったく……」

「ゴメンってばぁ~!」


 ランシッドに続いて呆れるクローテにさすがのモカもばつが悪そうな顔をした。


「ま、過ぎちまった事はいくら言っても変わらないさ……けど、ランシッド様だって時間と空間を司る精霊なんでしょう?」


 彼の力なら離れた特定の場所同士を結ぶ転移陣と同様のことが出来るのではないか、と言外に含んだブオルの言葉にランシッドは首を……今はどこが首かわからない毛玉の体を横に振った。


『俺はまだ本格的に目覚めてから二十年の新米精霊だから、力が安定してないんだよ。契約者が傍にいないと時空干渉に対応するだけでも実は結構いっぱいいっぱいなんだ』

「二十年で新米って……精霊の感覚はよくわかんねーなあ」


 そんなことを言いながら一行は終わりの見えない地下道をどこまでも進んでいった。

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