9~会議室の嵐~・3

 シーフォン、と呼ばれた青年は腕輪の入った箱をトランシュの前に置き、辺りを見回す。


「あの……シーフォン、腕輪を持ってきてくれたのはありがたいんだけど、僕達は大事な話の途中でね」

「僕には話せない内容なのですか? ひいおじいさまはともかく、メリーゼやクローテ、モカまでいるのに?」


 王や先王の他は騎士団の若輩と子供ばかりの会議室はシーフォンから見て違和感だらけの光景で、そこを突かれると一瞬全員が目をそらした。


「……えーと、一応聞くけどあのキラキライケメンはどちら様?」

「ランスロット王のご子息、シーフォン王子よ。王都騎士団の騎士でもあるの」


 こそこそとメリーゼに尋ねるカカオだったが、直後に凄まじい悪寒を覚える。


「ああっ、メリーゼ!」

「どわぁっ!?」


 シーフォンはすぐさま駆け寄り、カカオを押し退けるとメリーゼの手を取り顔をのぞきこんだ。


「シーフォン王子だなんてよそよそしい、昔のように“シー君”と呼んでくれたまえ……!」

「え、ええ……シー君……カカオ君にあまり乱暴しないでくださいね?」

「カカオ? そこの妙に君に馴れ馴れしい男のことかい?」


 突き飛ばされ椅子から落ちた体勢のカカオは傍で唖然と見ていたランシッドと顔を見合わせ、


(馴れ馴れしいのはどっちだよ!)

(こいつ、なんか知らねえけどムっっっカつくっ……!)


 口には出さなかったが、瞬時に意気投合したという。


 一気に変わり果てた空気に、はあ、とトランシュが溜め息をついた。


「……腕輪はフレスが運んでくる手筈だったんだが、彼はどうしたんだい?」

「ああ、大事そうに箱を抱えて会議室に向かっていたから怪しく思って問い詰めたけど頑なに口を割らなくて……それでちょっと、ね。そろそろ視界が回復する頃だと思うよ」


 シーフォンの口振りから、恐らく腕輪を運んでくるはずだった騎士は魔術で目眩ましでもされたのだろう。

 まさか城内で王子からそんな事をされるとは思わなかった上に、不運なことに両手も塞がっていた騎士はそれを避けることはできなかったようだ。


「父上……」

「どこまでもこの一族に振り回される運命なのかね、俺達……」


 父を案じるクローテと、こんな所で聞かされた孫の名に、まだ見ぬ彼を哀れに思うブオル。


 そんな光景が繰り広げられる中で、


「どうでもいいけど話再開してくんない?」


 机に突っ伏したモカが退屈そうに足をばたつかせながら、呆れ顔をしていた。

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