9~会議室の嵐~・2

「滅したはずの“総てに餓えし者”の眷属が再び出現……マンジュの里には、各地から同様の報告が届いているのでござる」


 マンジュの里から連絡役として定期的に王都を訪れていたカッセは、今回の件を受けて急遽こちらにやって来た。


 カッセの報告を一通り……スタードが魔物の浄化と引き換えに力を使い果たして倒れたことやデューことデュランダル騎士団長が街の魔物を一掃したのち異変を察知してどこかへ行ってしまったことも聞いたトランシュの表情は、一瞬苦いものに。


 が、そこはすぐに切り替えて次の話題へ移る。


「他の町や村は大丈夫なのかい?」

「当時騎士団が使った“腕輪”も各地にいくつか支給されているゆえ……ただ、二十年近く前に一度去った脅威に対処が遅れてしまったところもあり申した」

「ああ……そもそも、あの災厄を知らない世代も増えたしね」


 彼らのように、と赤銅色の猫目が目配せをする先には“災厄”より後に生まれたカカオ達若者がいた。

 通常の魔物と対処方が異なるあのどす黒く飢えた化物を前に、彼らの力は通じない。


「また大精霊や腕輪の力を必要とする時が来るとはね……」

『どのみちカカオ達はあの眷属と接触する可能性があったから、腕輪は必要だったけど』

「そこの話をまだ拙者は聞いていないのでござるが……この事件の前から、災厄の眷属と接触する可能性があったと?」


 無意識か小さく首を傾げるカッセに、ランシッドが『俺から話そう』とカカオ達のこれまでのいきさつを説明する。

 今になって“英雄”を抹殺するべく時空干渉を行い二十年前の出来事に介入する者が現れたこと、送り込まれた刺客から“テラ”という名前を聞いたこと。


 そして、事件の影響なのか時空の壁が薄くなり、五十年も昔の人物であるブオルが現代に迷いこんで来たこと。


「そんな事が、ランシッド殿の手を離れて起こり得るのでござるか……」

『二十年前の魔物がこの時代に現れたのも、ブオルの件と同様なんじゃないかと思う。そして恐らく、一度こうなってしまったらもうこの世界は別の時代の“異物”が紛れ込んでめちゃくちゃになってしまうだろうね……』


 異物、というある意味精霊らしい物言いにブオルの表情が一瞬険しくもどこか哀しげに歪む。


(いつかは取り除かれ消えなきゃいけない、異物……か。当たり前だけど、きついなあ……)

「ブオル殿……」


 と、横で心配そうに見上げる青藍の瞳に気付くと、すぐに笑って見せ、小さな頭を撫でてやった。


 そこに扉の外から数回ノックが聴こえ、一同の注目を集める。


「……ランスロット王、腕輪をお持ちしました」

「ご苦労様。入って……ん?」


 やや重量感のある扉が音を立てて開かれると、両手でしっかりと箱を持った騎士……背丈や年頃はカカオより少し下くらい、やや細身でつやつやの白い髪を肩まで伸ばした、トランシュによく似た顔立ちの青年が現れた。


「シーフォン、どうして!?」

「父上が予定にない会議を始めたので気になってつい……これは何の話ですか?」


 妙にキラキラとした爽やかな青年の登場で、一瞬にして場の空気は破壊される。

 そして同時に、これは紛れもなく英雄王……トランシュの血筋だなと確信するカカオとブオルであった。

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