6~まぼろしの再会~・4

――――想い出の花畑は、無惨にも赤く染まる。


 若者達が駆けつけるも時既に遅く、白騎士はその命を散らしていた。


 どうして、こんな事に……


 上空からそんな光景を見つめる、魔物の翼を生やした王。


 様々な感情が廻り、駆け抜け、茫然としていた彼の唇が、やがてゆっくりと動く。


―もう、戻れない。―


 そうして王は“狂った王”、“世界の敵”となり……――




「――嫌っ!」

「メリーゼ!?」


 中央大陸の端にあるシブーストという村の外れで“聖霊の森”と呼ばれる森の中、スタードを探して見回しながら歩いていたカカオ達は少し前から頭を抱え、足を止めていたメリーゼの叫びに振り返った。


「顔色悪いぞ、お嬢ちゃん。具合でも悪いのか?」

「メリーゼ姉、またたの?」

「え、ええ……」


 ブオルとモカに挟まれて覗き込まれたメリーゼは、早鐘を打つ鼓動と呼吸を抑え、どうにか取り繕った。


「視た、っていうのは……」

「どうやらこの先、歴史をねじ曲げられて起きるかもしれない事が少しだけ視えてしまうらしいんです」


 ブオルに説明しながら気持ちを落ち着けると、現代で待つ二人を思い浮かべるメリーゼ。


(フローレット王妃の時といい……“テラ様”というのは、よほど悪趣味なようね。あんな風に笑いあえる二人に、そしてブオルさんの前で、こんな結末を迎えさせる訳には……)


 唇を強く横一文字に結び、少女の眉間に力が入る。


 しかし、


「あんま一人でしょいこむなよ、メリーゼ」


 強張った彼女の手を、カカオが両手で包んだ。


「オレ達はお前が視た光景を直接知ることはできない。けど“それ”が起きないためにオレ達がここにいるのは確かだ。仲間だろ、オレ達」

「カカオ君……」


 悪夢のような光景を、現実のものにはさせない……この場に集まった彼らの想いはひとつ。


「この先にある花畑にスタード様がいるようです。急ぎましょう!」

「よし、早いとこ図形野郎を見付けてぶっ倒すぞ!」

「おー!」


 カカオとモカが威勢よく拳を振り上げ、ずんずん進んでいく。

 そんな背中を見つめ「ありがとう」と表情を和らげてそっと呟くメリーゼと、それに安堵したように目を細めるクローテ。


 そして……


「青春だなあ」

『若いねえ』


 年長者組はしみじみとしつつ、先陣をきる若人達の後をついて行った。

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