6~まぼろしの再会~・3

「……なるほど。幽霊でも幻影でもなく、知らない間に時空の壁を通り抜け、過去から迷いこんできたと。そして成り行きでクローテ達に協力することになったのですね」

「驚かせてごめんなー」


 帰ってきた屋敷の主人もカカオ達同様に居間のやわらかなソファに腰掛けて。

 時空の精霊やら過去の出来事やら、二十年前の戦いでさまざまなものを見てきたスタードは彼らの事情を聞くと、それなら最初からそう言えば良かったのに、とすぐに状況を理解した。


「ふ、普通に受け入れてる……」

「いろいろありすぎたからな……もう滅多な事では驚かん」


 そこの元王様など、空を飛んだりしたしな。

 冗談なのか何なのかわからない息子の発言に、ブオルは「えっ」と声を漏らした。


 まあ、それはさておき。


「過去に干渉し、英雄……デュランダル達当時の仲間やそれに近しい者を狙う存在か……」

「お前もそうなんだよな、スタード?」

「ええ、まあ……」


 父に問われて曖昧な返事をするスタードは、どうせ自分は大したことしてないとでも思っているのだろう。

 そう感じたモラセスは昔より幾分か薄くなった従者の肩に手を置いた。


「英雄の一人であるお前はもちろん、干渉は連鎖的に影響を及ぼすのだから、当時関わった者は皆危険だと考えていい。ガトーやフローレットがそうだったろう?」

「王妃様が消えかけた時、王様も一緒に消えようとしてたもんな……」


 モラセスの言葉で起きたばかりの出来事を思い出し、カカオが俯きかけるが、


「スタードお祖父様!」

「スタード、お前その体は……!」


 周囲のただならぬ気配に弾かれたように再び顔をあげた。

 モラセスが手を置いた肩も、手も、うっすらと存在が薄まるように透けていくスタードの様子はカカオ達には三度目のものだった。


「これが“時空干渉”……今度は私の番、という訳か……」

『いけない、早く行かないと……みんなっ!』


 すぐに時空転移を始めるランシッドによって、集まったカカオ達の姿も薄れ始めていく。


「あっ、びっくりどっきりボックス!」

「そういや俺の武器……」

『一緒に送っとくから大丈夫!』


 先程まで寛いでいた一行の中には突然の出発に準備が整っておらず騒ぎ出す者もいるが、ランシッドの言葉通りソファの後ろに置いてあったモカのからくり箱も転移を始めていたため、すぐに静かになった。


「クローテ、父上……!」

「お前達が頑張ってこの未来を作ったんだもんな、スタード……必ず守ってやるから待ってろ」


 立ち上がろうとしたスタードを片手で制止したブオルは、すぐにその手で我が子を昔のように優しく撫で、安心させようと、陽の光がこぼれるような笑顔を向けた。


「い、いえ、その……」

「んじゃ、父ちゃん行ってくるからな!」


 スタードが口を開きかけたその時、その姿は完全にこの場から消えてしまった。


 そして賑やかだった居間には、スタードとモラセスのみが残る。


「あのブオルがついているんだ、問題ないだろう」

「そういう心配ではなくて……時空干渉で狙われるのは今のところ、生命の危機に瀕していたりその可能性がある場面だったと思うのですが、」


 私にとってのそれは、もしかしてあの場面では?


 スタードがそう言うと、モラセスはそれだけで思い至ったのか「あ」と声を発した。


「父上があの場に居合わせたら、いろいろとまずいのでは……」

「むう……」


 渋い顔で押し黙る白髪の老人の指先も、また同様に消えようとしていた。

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