1~戦いの幕、開く~・1

 時空干渉によって存在を消されそうになった祖父を救うため、時空の精霊の力を借りて過去にやって来たカカオと、その幼馴染みメリーゼとクローテ。


 彼等がやって来たのは、先程までいた場所とよく似た……


「じいちゃんの工房……?」

『二十年前の、だね。けど様子がおかしい……気を付けて、三人とも』


 まず目についたのは、床に散乱する道具……祖父のガトーは職人の仕事をとても大事にする男で、その道具を粗末に扱うなど有り得ないことだった。


 何かが起こっている……ただ事ではない、何かが。


「ガトー様はいったいどこに……?」

「う、うう……」


 苦し気な呻き声を耳にした三人は、床に横たわるガトーを発見するが……


「じいちゃん!」

「……待てカカオ、誰だあれは!?」


 すぐさま駆け寄ろうとしたカカオをクローテが制止する。

 ゆら、と不自然に歪んだ空間から、何かが姿を見せた。


「子供が三人……おかしい、ここにはこいつの他に誰もいないはずだぞ?」


 声を発したのは、いくつかの図形を組み合わせて造った人形のような、明らかに異質なモノ。


『おかしい、はこちらのセリフなんだがな……』


 ランシッドが異形を睨んだまま口の端を上げる。

 通常、精霊の姿や声を認知することができるのは契約者かそれに近い高い適性をもつ者に限られている。

 得体の知れない相手に警戒して一旦実体化を解いた彼の声は誰の耳にも届かず、異形もそのまま言葉を続けた。


「……まあいい。英雄を消すのが我が任務。邪魔立てするなら同様に始末するのみだ」


 腕らしき三角形の鋭利な先端をカカオ達に向けると、化物は身構えた。


「問答無用か……来るぞ!」

「けどこんな所で戦ったらじいちゃんの工房が……」

『任せて!』


 ランシッドの声だけが響くと、ぶわ、と辺りの景色が消え、奇妙な空間に包まれる。

 散らばった道具も、意識を失っているガトーも、いつの間にか見えなくなっていた。


『周囲に影響が及ばないように空間を切り離したよ。これで工房をぶっ壊すことも、誰かに見られることもなく暴れられる』

「この力、まさか……」


 突然起こった異常事態に、頭部らしき部分はあるがそれが顔かどうかも怪しい化物の、唯一表情が確認できる声色に変化が見えた。


「これなら思いっきりやれるな……カクカク野郎め、覚悟しやがれ!」

「……邪魔はさせん!」


 カカオ達もそれぞれ武器を構え、戦いの幕が開けた。

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