桜守に捧げる12の手紙

@yukiya724

第1話 睦月の手紙

一陽来復の春、お変わりなくお過ごしのことと存じます。

風のうわさで、あなたがとうとうあの桜の守り人になったことを聞きました。いつか、が今年来たことに何かしらの感慨を覚えます。


思えば、あなたはいつもあの桜のことを思っていて、あの桜のために何かしたいと願い、あの桜のそばにありたいと、口にしていましたね。

今だから白状しますが、私はそれをひどくうらやましく、聞いていました。あなたのその思いがまぶしくて、美しくて、きらきらしていて。妬ましいのではなく、純粋に子どもが「いいなぁ」と嘆息するように、思っていたのです。


さて、今年の冬は数十年に一度という言葉が何度も重ねられるほど、寒いです。

あなたの桜は凍えてはいないでしょうか。

きっとあなたのことです。むしろを巻いて、あなたの桜を冬の寒さから守っているのでしょう。

あなたはそれはそれは大事に、あの桜のことを思っていましたから。

雪の降る中、分厚いコートを着て、桜のために、むしろを巻くあなた。きっと口元にはあなた独特の淡い笑みが浮かんでいて、もしかすると鼻歌すら歌っているのではないかと夢想します。

こういう想像は、私の心を温めてくれ、忘れていた微笑みを取り戻してくれるような気すらします。

あなたと、あの桜のおかげですね。


紙が尽きるので、今回はこの程度で。

寒さ厳しき折、なにとぞご自愛ください。


1月吉日

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る