第2話 合格発表とルナ

俺は、突如痛みを感じた。

 時刻は早朝。窓からは太陽の光がさしていて、小鳥たちはさえずっている。そう、今は朝。

 このような状況下で痛みを感じるシチュエーションは、ただ一つ!(たぶん)



 ベッドから落ちた。








 寝相が悪いのが自分の短所の一つだろうか。だが、良く言えばチャームポイント。もっと良く言えば長所。つまり、自分には短所は何一つございません。……って朝から何を考えているのだろう。

ベッドから落ちたごときでよくここまで文字数が稼げたものだ。


 今泊まっている宿屋は王都にあった安くて評判の良い宿屋だ。アンガレド学園から徒歩30分ぐらいのところにあり、近いとも遠いとも言えない何とも微妙な距離だ。


 ここの宿屋は、他の宿屋に比べて繁盛している。かくいう俺も繁盛しているのが目に見えて分かったので泊まることにしたのだが。今日で宿泊して8日目となる。宿屋の店主とも朝の挨拶を交わせるぐらいにはなっている。

 そして8日もいれば、この宿屋の良いところがよく分かる。冒頭で触れた長所だな。

 それは、飯が美味いということに尽きる。安くて美味い!飯は別料金なのだが、宿泊者は通常の料金より安い料金で食べることができるのだ。なんと商売上手なんだろうか。

 ここの店主が作る料理は、凄く美味しい。泊まった人がリピーターになるぐらいだ。

 まぁ、そういうわけでここの宿屋は他の宿屋に比べて繁盛しているのだ。


 短所?短所は店主がハゲていること。ハゲはチャームポイントじゃない。よって短所である。QED(証明終了)







 美味しい朝ごはんを宿屋で食べ、合否を確認するために学園へ向かう。不安だ。実技試験の試験官には、手を抜いているのがバレてたっぽいし、もしかしたら不合格しれないな。その時は、大人しく師匠の前で土下座しよう。




 学園までの道のりで商店街を通る。

 王都だけあって、商店街は朝から繁盛している。王都では、朝早くから働くものが多い。それは冒険者の存在が影響しているのだろう。底辺冒険者達は、我先に依頼を受け、速やかに依頼内容を達成していかなければ食っていけないのだ。

 そのせいで、商店街は冒険者のニーズに応えるために朝から大忙しってわけだ。


 冒険者達は、明日への希望を胸に目を輝かせながら商店街で必要なものを揃える。

 商店街の人達も精一杯働いている。

 元気があっていいな。頑張っている人をみると、自分も頑張ろうと思える。だが、めんどくさいので程々に頑張ろうと脳が勝手に切り替えてしまう。15年生きて俺は、そういう人間なんだなと最近気付いた。




 商店街を抜けると、すぐに学園がみえる。

 この学園は非常にでかいため、学園のまわりを商店街が囲むようになっている。

 俺は学園の南門から学園内に入った。いつみてもでかい門だ。

 朝早くに来たため、他の受験生の姿は見えない。合格発表までにはまだ時間がある。

 寝ようにも寝れなかった俺は、早朝に目を覚ましたときに考えついたのだ。合格発表までの時間の潰し方を。


 それは、散歩だ。

 この広大な学園内を散歩しようと考えていたのだ。なんとも有意義な時間の過ごし方なんだろうか。


 門を抜けた先には、まず広場がある。南門の広場は少し豪華だ。なんと、広場の真ん中には噴水があるのだ。周りには、色取り取りの花々が綺麗に植えられている。ベンチも置かれていて、ちょっとしたデートスポットみたいだ。

 そんな広場を歩いていると、ベンチで横になっている少女を発見した。

 綺麗な青白い髪をしているのと、少し小柄なのが分かる。服装からして貴族の方だろう。腰に携えている細剣は、鞘からして高価そうだ。


 まだこの季節の朝は、少し肌寒い。こんなところで寝ていたら風邪をひいてしまうだろう。声をかけようかと思ったが、貴族ということを考えると、もしかしたら後々めんどうなことになってしまうかもしれない。


 葛藤の末、俺の良心が勝利した。つまり、声をかけることにした。


「おーい、起きろー。こんなとこで寝てたら風邪ひくぞー」



 反応はない。ぐっすりと眠っている。

 肩でも揺さぶって起こしてやるか。


「おーい、起きろー。風邪ひくぞー」


「……ん」


 目を覚ました。眠そうに目をこすりながら上体を起こし、ベンチに座る。

 目がぼやけて、視界がよく見えないのか俺の方をじっと見ている。

 しばらくして


「……誰?」


 なんとも言えない天然っぷりをかもし出している。こいつからは天然の香りがする!!いい匂いとかそういう意味じゃないぞ。


「通りすがりのイケメンだ。お前がこんなところで寝てたら風邪ひきそうだったから起こしてやったんだ」


「……そう。顔整ってるね。髪も。綺麗」


 冗談で言ったつもりが、なんか褒められた。無表情な顔、棒読みで言われても本当にそう思ってるのかすら分からないが、とりあえず褒められた。

 この子は俺の顔を褒めたが、褒められるべきはこの子の方だろう。整った顔立ちをしていて、目は大きい。少し幼い印象を受けるが、美少女といって全く問題のない子だろう。無感情そうな顔をしているのが、少し無愛想だが。


「あー、まぁ、ありがとうと言えばいいのか?ところでお前、こんなところで何してるんだ?」


「……合格発表見にきた」


「なるほど、時間間違えて早く来すぎたって訳か」


「そう」


「お前も暇な訳だな。よし、じゃあ俺と学園内を散歩しよう」


「……友達?」



 こいつは相変わらず、無表情な顔をしているが『……友達?』と首を傾げて言った。

 こいつなりの感情表現だろうか。

 それにしても、友達?ってなんだよ。それだけじゃ何言いたいか全然分からん。


「あー、友達になりたいってことか?」


「そう。友達いないから欲しい」


「人は、手にしてない物を欲しがる生き物だからな。お前の欲望も分からんではない。だが、友達はなってくださいと頼まれてなるものじゃない。俺とお前、こうして楽しく、仲良く会話してる時点で俺たちはもう友達だ」


「……嬉しい。はじめての友達」


 頰をほんの少し赤く染め、少し口角があがっている。この表情は、何とも可愛らしいものだなと思った。


「合格してここに通うことになったら友達たくさんできるといいな。俺の名前はガレア。お前の名前は?」


「……ルナ」


「ルナか。よし、じゃあルナ。学園内をちょっと見て回ろうぜ」


「わかった」



 こうして、不思議な友達ができた。

 学園内を散歩しているとき、ルナとは色々会話した。ルナは、親が厳しかったらしいので合格したら家を出て寮暮らしをすると楽しみにしているようだ。やることがたくさんあったので、同年代の友達が出来ることがなかったようだ。なんとも悲しい話だろうか。



 そんなこんなで学園内を歩き回っていると、合格発表の時間がやってきた。広場の方へ行くと、合否が書かれた紙が貼り付けられているボードが置いてある。その周りには、受験生が群がっていて、結果を見て一喜一憂している姿が見える。


 ボードに近づく。受験生達が俺たちの存在……いや、ルナの存在に気づくとボードの前を開け始めた。ボードの前には、空間ができ、結果が見やすくなった。

 見るのが楽になったので、ラッキーだ。

 俺の受験番号は、くさいだから……931……あった。Aクラスで合格らしい。一番優秀なクラスで合格してしまった。BクラスやCクラスあたりを狙っていたんだがなぁ。誤算だった。

 隣のルナにも受かったかきいてみる。


「どうだ、ルナ。受かってたか?」


「……うん。Aクラス」


 ルナもAクラスのようだ。一緒のクラスか。楽しそうなような。大変そうなような。何とも言えない。


 俺たちが会話していると周りがヒソヒソ声で会話をし出す。


「氷姫と仲良くしてるあの黒髮は誰だ?」

「命知らずっていうか、なんというか」

「ヒソヒソ……」


 氷姫ってルナのことかな。氷姫、なんともミスマッチなあだ名だな。ロボットとかの方があってんじゃないのか?


「なぁ、氷姫ってお前のことか?」


「……そうらしい」


「ふーん、まぁ一緒のクラスになったんだし、これからよろしくな。じゃあ、俺帰るわ」


「わかった。ばいばい」


 ルナは手を振って俺に別れを告げた。無表情だが、心なしか少し嬉しそうかもに見えるかもしれない。


 よく分からない不思議な友達が出来たな。

 それと無事、アンガレド学園に合格していた。

 合格したことによって、学園内にある寮に入寮する手続きが出来るようになった。入学式までに入寮する必要がある。余裕を持って明日にでも入寮するとしよう。

 今は少し眠い。今になって眠気が襲ってきたのだ。宿に帰って昼食の時間まで一眠りするとしよう。

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