入学編

第1話 入学試験

受験番号931番 ガレア。指定された位置に移動しなさい」


 931番……俺か。この臭そうな受験番号は俺だ。

 座っていた席を立ち、闘技場の真ん中の方へ足を進める。説明のとききいた目印を発見する。白い線が引かれているところだ。


 線の上に立つ。正面には、屈強な男が立っている。これから行われるのは、アンガレド学園の実技試験だ。細かい説明は遠慮したいので、大雑把にアンガレド学園について説明しよう。


 アンガレド学園とは、王都にある学園だ。15歳から通うことができ、王族や貴族の子弟等が通っている。中には才能のある平民達も通っている。倍率は非常に高く、試験内容も難しい。なので、英才教育を受けている王族や貴族らが大半を占めている。


 要は、優秀な奴だけが入れる学園だ。その実技試験をこれから行う訳だ。内容は単純。試験官と戦うだけだ。試験官と戦うことによって、受験者の強さを採点するらしい。なんとも分かりやすい試験だろうか。


「黒い髪……珍しいなぁ。黒髮なんて久しぶりに見たぜ。おっと、いきなり悪かったな。気を悪くしたなら謝るぜ」


 正面に立っている男、つまり実技試験の対戦相手である試験官が俺に笑顔で話しかけてきた。

黒髮が珍しがられていたが、俺自身も全然見かけないから仕方ない。こういうのは、よくあることだから慣れてるしな。


「全然大丈夫ですよ。おかげで緊張も解れました」


「ハハ、そりゃよかった。今日は全力を出せるよう頑張ってくれよな」


 この男、説明等を担当していた試験官とは印象が違ってなんだかゆるい。確か、実技試験の試験官は、学園の職員の他に優秀な冒険者を少し雇っているときいたことがあるな。職員の人が生真面目な人ばかりとは言わないが、彼は冒険者のような気がする。


「お気遣いありがとうございます」


 頭を下げ、感謝の言葉を対面する試験官に送った。

 静かになると、場外にいる試験官がマイクを口に近づけた。


「……それでは、試験を開始します」


マイクで拾われた音声が常設されているスピーカーによって、闘技場全体に響き渡る。


 試験が始まった。つまり、試合の開始を意味する。

 先手は、受験者の方から行えるため、試験官は動こうとしない。制限時間は5分。その間に受験者は実力をアピールする。基本的に5分経過し、試験が終了する。もしくは、自分の魔法等の力によって試合を続行するに相応しくない状況になっても試験は終了する。

例外中の例外だが、受験者が試験官を倒しても試験は終了する。


 さて、どうしたものか。倒してしまっても構わんが、あまり目立つのもどうかと思う。何かとめんどくさそうだ。幸い、試験官は剣を構えている。試験官が剣士であることは明白。ここは、剣で打ち合うことで乗り切るとしよう。











 今日の分の実技試験が終わり、アンガレド学園の試験は全て終了した。

学園の職員達は、連日とあった試験の結果が書かれている資料を見ながら合格者、不合格者を整理している。


「いやぁ、今年は豊作でしたねー。まさか、試験官を倒しちゃう子が二人も現れるなんて」

「ホントよね。他の受験生も優秀な子が多いのよねぇ」


 学園の職員達は、今年の受験者は優秀な子が多いと談笑している。その中には、ガレアが冒険者だと思っていた屈強な男がいた。彼も口を開き、会話に混ざる。


「俺も気になる受験生がいたんだよなぁ。931番のガレアって黒髮のやつなんだけど、分かるか?」


「あー、あの子ね。黒髮なんて珍しいわよねー。合格者の中でも優秀な子が選ばれてるAクラスだけど、聞いたことも見たことない子だし、髪の色以外に特に目立ったところはないと思うのだけれど......」


 女性職員は、顎に手をあてながら答えた。確かに、ガレアは貴族ではなく、平民のため情報が非常に少ない。受験結果も学科試験、実技試験共に優秀であるが、驚くほど目立って優れているところも見当たらない。


「そいつ、実技試験のとき剣術だけで戦ったんだよ。魔法も一切使ってない」


 女性職員はそれを聞いて、一瞬にして驚いた顔に変わった。


「魔法を使ってない!?魔法を使わないでこんな点数出してる受験生いないわよ!?」


「えー、さすがに身体能力強化系の魔法は使ってますって〜」


 そばにいた男性職員も驚きながらあり得ないと言わんばかりの反応を見せる。


「試験中、俺はずっと魔力感知を使っていたが、魔力は感知できなかった。つまり、あいつは確実に魔法を使っていない。驚いたぜ、こんな受験生がいるとはな。しかも、俺が少し実力を出すとそれに応えるように力出してくる。あいつ、まだまだ本気出してないぜ」


 屈強な男は、ガハハと笑いながら話をした。

 話を聞いた二人の職員は、驚きで口を開けたまま少しの間静止し、口を動かす。


「まぁ、グランさんがそこまで言うなら、相当な実力者ですね……いやぁ、今年の大会は面白くなりそうだ!」


 男性職員は、神妙な顔つきになったかと思うと、ワクワクした子供みたいな表情に変わった。


「はぁ、優秀な生徒がこうも多いとなると教師陣は大変そうね……はぁ」


 女性職員は、ため息をつきながらこれからの苦労を想像し、既に疲れ果てている。


「まぁ、いいじゃねえか!それだけやり甲斐があるってもんさ。Aクラスの担任にぜひなりてえもんだな!ガッハッハ」


 女性職員に比べ屈強な男、グランは愉快そうに笑っていた。

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