第8話《もし》より《いま》を

「じゃあみんなスマホ出して~」

 高梨先輩がそう言うと、みんながそれぞれにスマホを出した。

 高梨先輩がすばやくスマホを出して女性陣と連絡先を交換した。


「僕は一切SNSやってないんですよ」

 僕は勇気を出して言ってみた。


「え~うそ~!」

榊原さんが驚く。

「珍しいですね~」

稲本さんは感心している


「たちばな!スマホ貸せ。俺が登録してやる」

 僕は高梨先輩にスマホを貸した。


 その間に桂は女性陣全員と連絡先を交換していた。

「ほらよ!TOINのグルチャに入れておいた。あとtoxiにkowitterにtocebookにkonstagramを登録しておいたぞ」

 高梨先輩が僕にスマホを返した。


 僕のスマホに山ほどSNSのアプリが入っていた。

 この短時間でこんだけのアプリ入れるなんて高梨先輩スゴイな。


「高梨先輩!このプロフィールの『婚活中です!初恋の人探してます』の文章はなんですか?」

僕はkonstagramの画面を見てびっくりした。


「今のたちばなの状況を書いといた。わかりやすいだろ?もしかしたら、心当たりある人が気づくかもしれないから」

高梨先輩は微笑んで言った。


 そして、なんだかんだで合コンはお開きになった。

 桂はコソッと稲本さんと飲みに行ったようだ。

 桂!抜けがけしたな!


 すると、ビルのエントランスで高梨先輩が真剣な顔で話しかけてきた。

「今日の中に初恋の人はいたのか?」


 僕より先に権蔵が答えた。

「それが分からんのじゃ。強い何かを感じたんじゃが、合コンのおなごの中にいたかどうかまでは」

いつも権蔵は、こいつは違うだの言ってたのに今日は分からないなんて初めてだ。


「そんなこともあるのか……」

僕はポツリと呟いた。


「さっきトイレに言った時にちょっと見てしまったんだが…もしかして、探している初恋の人が近くにいたんじゃないか?」

 高梨先輩がおそるおそる僕に言った。


「確かに権蔵の様子が変だった……って高梨先輩いつから見てたんですか?」

僕は高梨先輩に言った。


「『ワシの初恋の……』の辺りから」

 てへっと可愛くベロを出す高梨先輩。


「ほとんど見とるやないか!確かに彼女の声がしたのじゃ」

 権蔵は、初恋の人の声がしたと言い張る。


「でもここは10階建てのビルだし!会社もお店も飲食店もパーティ会場まであるよ!全員探すのは無理だよ!」

僕は流石に声だけで探すのは無謀だと思った。


「いや彼女の声を聞こうと思うならばワシにはこの1階しか無理じゃ。それ以上は遠すぎてわからぬ。現に見つける前に分からなくなった」

権蔵はドヤ顔で言った。


 1階のフロアって結構広いのに聞こえるってすごいな…


「ということはだ。いるとしたらさっきの居酒屋の客、店員と会社フロアの社員、そしてパーティ会場、トイレだな」

 高梨先輩はビルの入口の一階の案内板を見ながら言う。


「どうするんじゃ?」

権蔵も案内板を見ている。


「とりあえず、SNSで投稿するんだ!僕はここにいます。今日ここにいた人いますか?って」

高梨先輩が僕のスマホを指を指す。


「不審がられないですかね?」

僕はSNS初心者なので不安になった。


「心当たりがある人なら食いついてくると思うぞ」

 高梨先輩にそう言われ、僕はいろんなSNSに写真を載せ、投稿しまくった。


~しばらくして~

「誰も食いつかないですね…」

僕はずっとスマホを握りしめ、スマホは熱くなっていた。


「やっぱり始めたばかりだからか…」

 高梨先輩は落胆している。


「ここの一階を全部洗ってみるのはどうじゃ」

権蔵はフロアを指差す。


 どこから行けばいいだろう?

さっきの居酒屋ならわかるだろうし、会社フロアはもう夜遅いから閉まってるだろうし、女子トイレに入るわけにも行かない。

 消去法で僕達はパーティー会場に向かった。


 しばらく歩いていくと、[婚活パーティー会場]と看板があった。そこで片付けているスタッフさんがいた。


「もうパーティは終了しました。何か御用ですか?」

 スタッフさんに話しかけられ高梨先輩が尋ねた。


「ここの婚活パーティーはどこが主催してますか?」

高梨先輩がスタッフさんに尋ねた


torikonという会社ですよ。パンフをお渡ししときます」

スタッフさんは大量のパンフレットを見せてくれた。


「ありがとうございます。」

高梨先輩は紙袋いっぱいのパンフレットをスタッフからもらった。


「何か手がかりがあるかもしれない。この会社の婚活パーティ参加してみろ」

 高梨先輩は僕に婚活パーティの主催者のパンフレットを全部くれた。


「可能性があるなら行ってみます」

僕はパンフレットを見ながら言った。

めんどくさいなあ。沢山人がいると疲れるんだけどなあ。


「今日の合コンの女の子も大事にするんだぞ」

 高梨先輩が念を押すように言った。


「まだ初恋の人かどうか、分かりませんからね」

僕は高梨先輩を見ながら言った。


 婚活パーティ会場をあとにして僕達は遠回りしたら会社フロアに出た。

「やっぱり閉まっているか……」

 ふと僕は会社フロアの案内板を見つけた。


[今猿コンサルティング]と書いてあった。

案内板に高梨先輩と権蔵が寄ってきた。


「今猿社長の父親の会社じゃねえか?」

高梨先輩はスマホで検索しながら言った。


「しかも1階の会社フロア全部その会社ではないか」

権蔵が驚いている

 なぜか僕はドキンとして目眩がした。何故だろうかどこも悪くないのに最近胸や頭が痛むことが多い。


「大丈夫か?」

 高梨先輩は心配して駆け寄ってきた。


「1人で帰れるか?」

「大丈夫ですよ!僕には権蔵がいますし」

 僕は心配をかけないように明るく振舞った。


 帰り道、僕は権蔵に話しかけた。

「もし生まれ変わりの人が全然イメージと違う人だとしても会いたいか?」

 僕は真剣な目で権蔵をじっと見た。


「当たり前じゃ。会いたいに決まっておる」

権蔵は即答した。


「なんで?」

 僕が不思議に思い疑問を投げかける。


「理由などない。ただもう一度会えるなら会いたいのじゃ」

 権蔵が遠い目をして言った。

恋ってそんなものなのか……


「じゃあ、もし相手が僕と結ばれないような人だったらどうする」

僕は漠然とした不安を感じた。


「人と人じゃ。形式にこだわらなければ結ばれんことは無いじゃろう。」


 権蔵が珍しくまともな返答ばかりしている。


「《もしどうする?》より《どうする?》を考えるのじゃ」

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