取り憑き婚活~すれ違い系ラブコメ~

かなかな

初恋の人を探せ!

第1話 倒産

????『初恋の人を探してくれ』  

 この言葉が僕の運命を変えることになった。


 僕は普通の会社員30才独身彼女なし、名前は[たちばな]だ。天パーの短髪で二重だがイケメンではなく、それどころか実年齢よりも老けて見える。そして奥手な性格が災いしてか、この年まで彼女がいたことがない。


いつも仕事にはクタクタのスーツを着て通っている。徒歩10分、高校を卒業してからずっと働いている《バルーンフラワー株式会社》だ。決してお花関係の仕事ではない。


 同級生はどんどん結婚していく。

高校時代の親友にも、半年後結婚すると報告された。


「寂しいな」

僕は、そう独り言を言って会社に向かう。


会社に到着すると、女子社員2人がなにやらコソコソと話しをしている。

「聞いた?うちの会社なんかやばいらしいよ」

「聞いた聞いた。もうすぐ倒産するかもって」


 と、倒産……?!


 この女子社員たちの噂はいつも当たっている。

 僕は決して盗み聞きしてるわけでなく、勝手に聞こえてくるのだ。

 会社が終わり、帰り道を歩いていると新しく居酒屋が出来ていた。

 あまりお酒は得意ではないが、今日は何故か飲みたい気分だった。


 居酒屋の中に入って、空いているカウンター席に座りビールを頼んだ。

 そこでまた盗み聞き……いや勝手に話し声が聞こえてきた。


 隣のテーブルから聞こえるようだ。

ちらっと隣のテーブルを見ると、僕と同年代ぐらいの男女4人組がいた。

 合コンだろうか……。

 20代後半ぐらいの男性が乾杯の音頭を取っている。


「今日の仕事も大成功だ。お疲れ様。乾杯」

 同じく20代後半ぐらいの女性がその男性のグラスに飲み物を注ぐ。


「今日もお疲れ様です。部長」

 どうやらどこかの会社の慰労会みたいだ。


 僕より若そうなのに、部長とは……

うらやましい…そしてビールを一気飲みした。


「こっちは明日にでも会社が倒産するかもしれないのに」

 慣れないお酒を飲んだせいか思わず口走っていた。

 目の前にそっときんぴらごぼうが置かれた。


「すみません。これ頼んでないですよ」

 僕は店主にそう言った。


「サービスだよ」

 店主はにっこりと微笑んだ。


「ありがとうございます」

 店主のやさしさに惚れそうになった。60代ぐらいのおじさんだが


 僕は居酒屋を上機嫌? で出て、帰りにバスに乗ると、ウトウトと寝てしまった。

 僕が気がつくと家とはだいぶ離れた場所だった。

「すみません! ここで降ります! 」

 バスから降りるとスマホのナビを見ながら駅の方へ歩いて行った。


 もうすぐ終電の時間だ。

 僕は駅の方面に、慌てて走っていった。

 すると、昔僕が通っていた[ひいらぎ高校]を通り過ぎた。

 こんな夜遅くなのに誰かが高校に入って行くのが見えた。

「うっ」


 急にめまいがしてそれに気を取られた瞬間…

車のライトが僕の目の前で光っていた。


 僕は諦めてそのまま動かなかった。

車は急ブレーキを踏んだが結局ぶつかってしまった。


『初恋の人を探してくれ』

 そんな誰かの声が聞こえて僕は意識を失った。


『お……き……ろ……』

『起きろ! 』


「やばい会社行く時間か! 」

 僕は慌てて目を覚ました。

目を覚ますとそこは病院で、僕の母ちゃんと医者がそばにいた。

 母ちゃんが心配そうに覗き込む。


「よかった……目を覚まして……心配したのよ」

 この状況を理解できない僕は、母親に尋ねた。


「どうして僕は病院にいるの? 」


「事故にあって病院に運ばれたのよ」

 母がそう答えた。


「心配かけてごめん」

 いたたまれなくなった僕は思わず呟いた。医者が話しかけてきた。


「目を覚まされてよかったです。痛い所はありますか?」


「特にないです」

 僕は正直に答えた。


「軽い脳震盪のうしんとうですね。

 検査は異常ありませんでした。しばらく安静にしてください」

 医者がそう言い終わると突然横から誰かが割り込んできた。


「まったくどんくさいやつじゃな。

 相手が急ブレーキかけたから、ゆっくりちょっとぶつかっただけなのに派手にこけおって……」


「えっと誰ですか? 」

 僕はびっくりしてそう言った。


 紫色の洋服に黒のマントをしている男性が母親の隣を陣取って座っている。僕と同じぐらいの年だろうか。背は僕より高い。僕は170cmいくかいかないかだ。

髪の毛はショートカットで顔は僕と同じく二重であるがぼんやりした雰囲気だ。


 見たこともない人だ。車を運転してた人だろうか。

相当失礼な人だな。


「母ちゃんの顔を忘れたの? 」

 母ちゃんがびっくりして言う。


「そうじゃなくて母ちゃんの隣にいる人は車を運転してた人? 」

 そういうと母親も医者も怪訝けげんな顔をした。


「何言ってんの?

 お医者さまと母ちゃん以外いないよ。

 それに運転してた人は来てないよ。今から大丈夫って電話しようとした所だよ」

 母ちゃんが一生懸命説明する。


「頭を打ったショックで混乱してるようですね。入院しますか?」

 お医者様も混乱してるようだ。


「入院して慰謝料いしゃりょうをふんだくった方がよいぞ」

 謎の男は悪魔のようなことを言っている。


 あー僕は頭がおかしくなっちゃったのか。

これは幻覚か……

 入院したくないなあ。もう見えない振りをしよう


「もう何も見えないです!

 気のせいでした。

 体もなんともないです」


 なんやかんやで無事退院できた。

 しかしその変な男はずっとずっと付いてくる。

 しかもずっと話しかけてくる。


「わしの話を聞けや。

 わしは侍で現代のことはわからん。おぬしにいろいろ教えて欲しいんじゃ」

 侍?どう見ても今風の髪の毛してるし服装もなんか違う。


 昨日戦国系のゲームやりすぎたかな。


「マジでうざい」

 ぽつりと僕は言った。


「おぬしワシのことマジでうざい言いおったな!

 邪険にすると後悔するぞ」


 さっき『現代のことはわからん』って言ったくせにうざいという意味はわかったのか。


 時々言葉遣い変だし……


 アパートの部屋に帰って、侍が入れないようにドアを閉め、鍵をかけチェーンをした。

 後ろを振り向くとさっきの侍がいた。


「おまえどこから入った?」

 これはやばい……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る