36話 魔王

 

  この街、ガナタルは商業で有名な街である。様々な国と交易をしており、その商品の約5割がこのガナタルにいきつく。街のほとんどが日本の商店街のように道の端に店を開き、それが何軒もズラーッと並んでいるという状態だ。

 

  店の前では大きな声でタイムセール宣言をするおっちゃんや、値引きに持ち込もうとする客、借金をしようとする客、女性に土下座して借金しようとする男……。おい、もっとましな客はいないのかよ!


  「ここらへんの商品は物価が高いからねぇ。あんなのは日常茶飯事だよ」

  「そ、そうなのか……」


  なんていうか、世知辛いな異世界……。


  すると、刀の中から急に出てきたマシロがすぐ横にある店に駆け寄ってキラキラした目でそれを見ていた。

  その店はアクセサリーをメインとした店のようだ。

  指輪やネックレスなど他にも様々なアクセサリー商品が売られている。その中でマシロが見ていたものは青色に輝くブローチだった。


  「ねぇ!マスター!このブローチ凄く綺麗!」

 

  俺はブローチを見る前に値札の方を見る。

  そこには35,000円と記されていた。

  ……ん?円?……あれぇ?


  「なぁ、リン?この国って『円』で統一されてるのか?」

  「いや?世界共通で『円』だよ?それがどうしたの?」

  「まじかよ……!」


  都合良すぎね?日本語は通じるし、お金は円だし。

  ……流石、師匠のボスなだけある。


  「それにしても、35,000円はちょっと高すぎじゃないか……?」

 

  俺はポケットに入っていた財布の中身を確認する。

  入っていた金額はザッと5000円程度。

 

  「ふっ……だめだこりゃ」

  「えぇ!マスターのケチ!」

  「仕方ねぇだろ!そもそも金がねぇんだからよぉ!」

  「えぇ!これ買ってよぉ!マスタぁぁ!」


  すると、マシロはおもちゃを買ってくれなかった時の子供のように駄々をこねはじめた。


  「めんどくせーな!おまえ!」

  「もぉ、いいもん!」


  マシロはそう言うと、俺の刀の中に戻っていった。


  「浩介、買ってあげればいいのに……」

  「うーん……」


 ……はぁ。仕方ない。


  「なぁ、リン。ちょっとこの刀を持っててくれないか?」

  「え?うん、良いけど」

  「ありがとう。そのままギルドにいてくれ。俺も後で向かうから」

  「わかった!でも、場所……」

  「場所はこのまま真っ直ぐ行ったところの大きい屋敷みたいなところだろ?」

  「うん!じゃあまたあとでね!」

  「おう!」


  さてと……とりあえず交渉かな?


  「なぁ、ばあちゃん……」


  俺はそのブローチを売っているおばちゃんに交渉をしかけた。


 〜〜〜


  その後ギルドに向かい、中に入ってみると、中は宴のような騒がしさだった。

  酒を飲んでいる奴らが大半。クエストボードを見て、どのクエストに受注しようか悩んでるパーティ。受付の姉さんにナンパしている若い冒険者。

  流石、異世界!俺の期待を裏切らないぜ!

  そう!酒やタバコや男の臭いがプンプンする……これがギルド!……やばい、吐きそう。いや冗談抜きで吐きそう。第一俺、タバコの煙がマジで無理なんだよなぁ。


  俺がギルドの入り口でぐだぁっと肩を落としていると、リンが心配そうな顔をしてこちらに駆け寄ってきた。


  「大丈夫?浩介?」

  「あ、うん、この臭いきついな。まぁ、多分そのうち慣れると思うけど……」

  「最初は確かにこの臭いはきついよね……」


  やっぱりな!この臭いは絶対異常だ、うん。


  「とりあえず、はい!これ返すね」

  「あ、あぁ、ありがとう」


  俺は刀を受け取り、背中に背負う。

  背中に刀あると、なんか安心するなぁ……。

  だいぶ、この生活に毒されてんな俺。


  「じゃあ、ギルドの登録をしよう!」

  「了解!」

 

 〜〜〜


 

  「危なかったねぇ!あとちょっとで登録できないところだったよぉ!」

  「なんで……なんで、登録に金なんてかかんだよぉ!」


  ギルドの登録には4800円もかかった。

  どうやら、ギルドカード作成に結構金がかかるらしい。

  良かった。どっかの女神みたいに信者からお金をもらうなんてことはなくて。まぁ、俺神様じゃないけどね。

 

  「よし!じゃあ早速クエスト受けるかぁ!魔王退治のためにはまずは資金が必要だ!」

  「そっか、浩介たちは魔王を倒すためにこの世界に来たんだもんね」

  「あぁ、じゃないとあっちの世界に帰ってから色々大変だからなぁ」

  「まぁ、でも魔王は単体で行動してるから魔王城に行けばすぐに会えるよ!多分」

  「……え?」


  単体で行動……?


  「幹部とかは従えてないの?」

  「どうやらそうみたいだよ」

  「それでいいのか、魔王……」


  でも、幹部がいないだけでだいぶ楽だぞ、これ!

  とりあえず、クエスト見に行くか。

  俺は集会所にあったテーブルの席から立ち上がり、クエストボードの方を遠目に眺める。

  俺が見えたクエストの内容はおかしなものばかりだった。


  例えば、

  《ゾンビ50体以上の討伐》

  《ヴァンパイア1体の討伐》(こちらのクエストはA級冒険者のみのパーティに限ります)

  《ドラゴンゾンビ3体の討伐》


  「なぁリン、……なんでゾンビ系のモンスターの討伐が多いんだ?しかもヴァンパイアに限ってはA級冒険者だけだし……」

  「あぁ、魔王はね、死体を操ったりする闇魔法を使うからゾンビとか出てきちゃうんだ。ヴァンパイアはよく分からないや」

  「おぉ、まじか」


  まさか、魔王がネクロマンサーだなんてこれは予想外だ。そりゃ幹部とかいなくても十分やってけるわけだ。

  こりゃ相当大変そうだな。魔王退治……。


「はぁ〜……」


ため息が出ざるを得なかった。

 


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る