第15話 ツチノコとへいげん
ツチノコ一行はアメビーとプレーリーの家で一晩を明かし、次の目的地であるへいげんへバスを走らせていた。
因みにアメビーがコノハから借りた本はどこを見ても奇想天外なことしか書かれてなかったので、ツチノコ達が預かりとしょかんへ返すことになった。
色々問い詰めると約束して。
さて、バスは乗り込んだ一堂を揺らしながら着々とへいげんへと進んでいく。かばんは相変わらず特に意味もなくハンドルを握り、サーバルはそんなかばんと楽しくおしゃべり。
ツチノコはアンニュイな表情でバスの座席にもたれて、バスの窓から見える景色をボーッと眺めていた。
そんなツチノコにスナネコがくっつき、一緒に窓の景色を眺める。
ルルは落ち着きなくあちらこちらへ動き回っていた。
そんな一堂が思い思いの行動で暇を潰していたとき、その事件は起きた。
『止まれ!!』
バスの外からそんな声と共に黒い槍を構えたけものが飛び出してきた。ラッキービーストは思わず急ブレーキをかける。動き回っていたルルは慣性の法則で大きく体制を崩し、バスの中を転がり回った。
その飛び出してきたけもの、見ると黒い鎧に黒い槍、暗い髪色。一言で言えば黒いシロサイのような格好をしている。
「ちょっと!急に止まらないでよ!」
バスの地面を滑ったルルが運転席の方へ声を上げる。が、それは全員に流される。
一方、バスを止めた張本人のけものは、バスが止まったことでバス内に乗り込んでくる。初めてへいげんへ来たときのオーロックスのように。
「そこの者共!我が姫を知らぬか!?」
「は?姫?」
乗り込んできたけものが血相を変えて叫ぶが、内容のおかしさにツチノコは間抜けな返事をしてしまう。
「そう!我がシロサイ姫の行方を追っているのだ!お主ら、なにか知らぬか?」
その言葉に運転席から顔だけを覗かしていたサーバルとかばんも、客席の方へ移動する。
「シロサイならへいげんのヘラジカ陣営に居るけど…。というか君は誰?」
「あ、申し訳ない。我が名はクロサイ。シロサイ姫に使える騎士だ」
サーバルに問われそのけもの、クロサイは槍の穂先を上にし、地面に突き立て高らかに名乗る。
「え!?シロサイって姫だったの!?」
「…まあたしかにそんな感じの雰囲気だけどな」
「シロサイ姫は私にクロサイという名をつけてくれたのだ。私は姫に忠誠を誓うと決めた」
「そうか。世代交代したとはいえ、シロサイへの忠誠心はそのままか。微妙に口調が代わってるけど」
「それより貴殿!先程シロサイ姫はヘラジカ陣営に居ると仰ったな!今すぐ案内せよ!」
クロサイはサーバルの襟首をひん掴みガックンガックンと揺らしまくる。
「うみゃー待って!!落ち着いてー!!」
サーバルは目を回しながら必死にクロサイを抑えようとする。そんな声が届いたのか、クロサイはパッとサーバルを放した。
「へいげんはこれからぼく達が行くところなんですよ。そこにシロサイさんも居ますので一緒に行きますか?」
「ふむ、なるほど。ここで会ったのも何かの縁。そなたらに同行させて頂こう。改めてよろしく申し上げる」
言いつつ深々と頭を下げるクロサイ。
「私はサーバル!よろしくね!」
「ぼくはヒトのかばんです。よろしくお願いします」
「…ツチノコだ。よろしくな」
「ぼくはトムソンガゼルのルル!」
「スナネコです」
クロサイにみんなで自己紹介をする。
「じゃあ、出発するよ」
ラッキービーストの無機質な声が響き、新たにクロサイを乗せたバスは動き始める。
「ふむ、この乗り物は一体何なのだ?見たこともないのだが」
「これはバスっていうんだよ!」
ルルが元気よく返事する。
「バス…とな。なるほど」
「なあ、私からお前に聞きたいことがあるんだが、いいか?」
「…聞こう」
「お前はもう既にシロサイとは会っているのか?」
「当然だ」
「じゃあなんで今離ればなれになっているのですか?」
ツチノコの質問を先読みしてスナネコが聞く。
「おい、お前…。ま、私の聞きたいことはそれだ。どうなんだ?」
「…それを話すと長くなるがいいか?」
「じゃあいいです」
スナネコがズバッと切り捨てる。
「あ、いや、道に迷ってはぐれただけだ」
「全然長くねえじゃねえか」
ツチノコが思わずツッコミを入れる。
「んで、恐らくシロサイははぐれて彷徨していたときにヘラジカと出会い、ヘラジカに協力するようになったんだろうな」
「ああ、シロサイ姫…。一刻も早く私にその姿を拝めさせて崇め奉らせて頂きたい…」
バスに両膝をつき、天に拝むように言うクロサイに一堂はシロサイに会わせて大丈夫かと少し不安になる。そこに、
「みんな、ヘラジカ陣営の基地に着いたよ」
ラッキービーストがバスを停めつつ、その声を響かせる。
「お、着いたね!」
「久しぶりに見るなあ」
サーバルとかばんがバスの後ろの手すりに身を乗り出し、ヘラジカ基地の様子を見る。
「あー!かばんとサーバルですぅ!」
アフリカタテガミヤマアラシのヤマさんがサーバル達の姿を認め、大声をあげる。
「あ、久しぶりですわー!!」
ヤマさんの声にいち早く反応したのはシロサイだ。
「シロサイ姫えええええ!!!!」
その声に超反応したクロサイがバスの手すりをひとっ飛びし、真っ直ぐにシロサイの元へ駆け寄っていく。
「え!?く、クロサイ!!?」
「シロサイ姫えええ!!会いたかったですぞおお!!!」
ガチャンとお互いの鎧がぶつかり合う豪快な音を立てながら、クロサイがシロサイに飛びつき抱きしめる。
こうしてクロサイは愛しの姫君に出会うことが出来た。
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